第20回スーツアップ特別ウェビナー「サーチファンドを活用した地方創生の可能性~株式会社アラトの事例から学ぶ~」

当社では、2025年11月26日にゲスト講師に、株式会社アラト 代表取締役社長の赤塚 亮太氏を迎え、第20回目となるスーツアップ特別ウェビナー「サーチファンドを活用した地方創生の可能性~株式会社アラトの事例から学ぶ~」を開催しました。


本稿では、中小企業の皆様にとって有益な情報が満載だった本ウェビナーの内容を、ダイジェスト版としてお届けいたします。

前編は、ゲスト講師の赤塚氏による講演「サーチファンドを活用した地方創生の可能性~株式会社アラトの事例から学ぶ~」です。赤塚氏のご経歴は以下の通りです。

<株式会社アラト 代表取締役社長 赤塚 亮太>

大卒後、三井物産株式会社に入社。通信機械の貿易業務や経理業務に従事し、中国駐在(広州/重慶)を経験した後、2015年に退職し仏INSEADへMBA留学。帰国後はEF Education First Japanでの営業部長職を経て、楽天株式会社の総合企画部にて勤務し、全社的案件の対応や映画関連事業の立上げ等に従事。同社退職後に「日本版サーチファンド」として山口FGから出資を受け、2020年2月より事業承継活動を展開。2021年1月に株式会社アラト、2025年1月に株式会社マクロス・デザインを事業承継し、現在は2社の代表取締役社長として「子供達の未来の為に、豊かな地域社会を創り上げる」をテーマに日々経営に奮闘中。 

後編のゲスト対談(ゲスト講師:株式会社アラト 代表取締役社長 赤塚 亮太氏、株式会社スーツ 代表取締役社長CEO 小松 裕介)はコチラから。 

【まとめ】

  • 事業承継により生産性と持続性が向上
  • 地方の低成長は、優秀な人材不足が一因
  • 投資家との関係性や理解不足が課題
  • サーチファンドは地方で人材が活躍する仕組みになり得る
目次

会社の紹介

株式会社アラトという、福岡市で主に食品の運送をしている会社です。

社員約50名、所有車両は40台程度の規模です。約5年前にサーチファンドという手法で事業承継をしました。現在は運送業のほか、新規事業としてトラックを使用した広告事業も行っています。

自己紹介とサーチ期間の活動内容

自己紹介

私は岐阜県の出身で現在43歳です。一橋大学経済学部を卒業後、三井物産株式会社に入社しました。貿易業務や経理業務、中国駐在を経験した後、経営者になりたいとの思いから退社し、フランスのINSEADに留学してMBAを取得しました。

留学時代、外から日本を見ると、発展しているのは東京だけで、地方は衰退しているように感じました。一方で、三井物産時代に地域おこしのボランティアを行った経験から、地方には小規模ながらも魅力的な取り組みやビジネスが数多くあり、日本の強みはむしろそうした地方にあるのではないかと考えていました。そこで、自分は経営者として地方で頑張りたいという思いを持って帰国しました。

帰国後はEF(Education First Japan)で営業部長職を経て、楽天株式会社の総合企画部で勤務しました。楽天株式会社を退社した後に山口フィナンシャルグループから出資を受け、サーチファンドをスタートしたという経緯になります。

サーチ期間の活動内容

実際のサーチ期間の活動についてお話しします。

私の場合、全体のサーチ期間は約11ヶ月でした。正式にサーチファンドを立ち上げる前に、プレサーチという形で、後継者不在の企業と面談を行いながら活動の感触を確かめる期間を設けました。その上で2020年2月末、正式にサーチファンドを立ち上げ、本格的に活動を開始しました。

当初は山口フィナンシャルグループの融資先の中から後継者不在の企業をご紹介いただき、サーチ活動を進めていました。

最初に検討した企業とは基本合意まで進みましたが、インターンという形で実際に一緒に仕事をして、互いに見極めた結果、事業承継を見送ることで合意しました。次に、同じく銀行の紹介で別の会社とも面談し、2か月ほどインターンを実施しましたが、こちらは買収条件などが折り合わず、成約には至りませんでした。

そこでサーチ活動の幅を広げ、M&A仲介会社や税理士や弁護士といった士業の方々、業界団体などにも足を運び、後継者不在の企業をご紹介いただけないかと活動を進めました。

いくつかの企業でトップ面談を行いましたが、その中で9月頃にトップ面談を行った株式会社アラトは、自分が思い描いていた事業承継のイメージとマッチしており、先方からの好感触も得ることができました。その後、基本合意を結び、4か月ほどのインターン期間を経て、年明けに買収契約を締結、事業承継に至りました。

振り返ってみると、当初思っていたこととは少し違っていたと感じています。最初は事業承継問題というものがあって、地方に行けば後継者を求めている企業が多く、自分も引く手あまたになるのではないかと考えていたところがありました。

しかし実際には、財務的にも健全でしっかり利益が出ているにもかかわらず後継者がいない、という会社はそれほど多くありませんでした。

後継者不在となっている企業は、借入金が重いなど何らかの大きな課題を抱えていて、自分としても事業承継の判断が難しいケースが多かった印象があります。

そうした現実を踏まえながら、限られた期間の中で自分が承継できる会社を見極めていくというスタンスに変わっていきました。

当初はいろいろな理想があり、業種についてはある程度絞ってはいましたが、活動を進める中で、業種そのものよりも、経営者として働いて地方に貢献することこそが、自分にとって一番大切なのだと改めて感じるようになりました。

このサーチ活動の期間を通じて自分の意識は変わっていったと感じています。

株式会社アラトの紹介

ここで、地方における運送会社がどのような雰囲気なのか、株式会社アラトを例にご紹介します。

年季の入った社屋の前にトラックがずらっと並んでいる、こうした光景は地方の中小の運送会社ではよく見られるものですが、皆さんはなかなか目にする機会がないかもしれません。

また、弊社は新規事業として、運送トラックに広告を掲載し、広告収入を得る取り組みも行っています。さらに運送とは別に広告宣伝専用のアドトラックも所有し、広告オーナーの広告を載せて収益を上げるといった事業も展開しています。

既存事業をしっかり伸ばしながら、経営に自分らしい工夫を取り入れ、新しく加わった人材の発想を生かした新しいビジネスも行っていくということに取り組んでいます。

経営者交代によって生まれた変化

次に買収後の経営についてお話します。

前提として、前オーナーからの手厚い引き継ぎと伴走のサポートがあったことが非常に大きく、そのおかげで比較的スムーズに引き継ぐことができたと考えています。

外部から突然社長として入ると反発や混乱が起きるのではないか、と聞かれることも多いですが、実際はそうしたことはほとんどありませんでした。前オーナーが私としっかりタッグを組み、互いの意見をすり合わせながら一丸となって経営にあたる引き継ぎ期間を設けていただいたおかげで、落ち着いて経営移行ができたと思います。

その中で起こった変化や成果についてお話しします。

まず全体的な若返りです。ベテランとの融合が大切で若ければ全て良いというわけではありませんが、社長が比較的若い私に代わったことで、連動するように内勤スタッフやドライバーの年齢層も若返り、会社全体に以前にはなかった活気や推進力が出てきたと感じています。

また、ITツールの導入や業務の取捨選択などを進めたことで生産性も向上しました。以前よりも少ない人数でより多くの仕事をこなせるようになっています。労働環境の面でも、休日を増やしたり、定期的にオフィスを清掃することで従業員にとって過ごしやすい環境作りを進めてきました。

中でも最も大きな成果と感じていることが、サステナビリティの向上です。仕事を緊急度軸と重要度で4象限に分ける考え方がありますが、重要ではあるものの後回しにされがちな非緊急の領域に意識的に取り組めたことは本当に良かったと感じています。

運送会社においては事故を起こさないことが何より重要です。そのため、AIレコーダーを導入して、よそ見や居眠り、携帯による脇見などを防止したり、スタッドレスタイヤといった安全装備も充実させたり、といった取り組みを戦略的に進めてきました。

これらは短期での経済的リターンはありませんが、中長期の視点で見れば、会社の存続に直結する重要な成果だと考えています。

苦心したこと

一方で苦心してきた点もあります。一つ目は前オーナーとの距離感です。一丸となって経営に取り組む中でも、意見が食い違って衝突する場面はありました。

育った環境や世代も異なる以上、これはどの会社でも起こり得ることだと思います。基本的には私の意見を尊重いただきましたが、時間が経つにつれて、伴走を続けるよりも距離を取った方が会社のためだと感じる局面もあり、その調整には難しさがありました。

二つ目は、従業員との価値観の違いです。私と従業員では、育ってきた環境や仕事の経験が大きく異なります。頭ではわかっていたつもりでも、私の理解が足りずトラブルや衝突につながってしまったこともありました。三井物産や楽天で働いていた時と同じ感覚で接するとうまくいかない場面があることを痛感し、今も自分への戒めとして意識しています。

また中小企業なので、マクロの事業環境が会社の存続に関わってしまうということがあります。例えば三井物産のような大企業であれば、多少のことでは揺るがない安心感がありますが、中小企業では打つ手の判断を連続で誤ると一気に厳しい状況に追い込まれます。その緊張感や、やるせなさを感じることがあります。

「サーチファンド」の多面性

ここからはサーチファンドがどのように地域や地方創生に貢献できるかについてお話します。

サーチファンドという言葉は、日本では比較的新しく、いろいろな捉え方をされているように感じます。例えばIRRが高く、VCよりも魅力的な投資ジャンルという見方やプロ経営者を目指す人にとっての登竜門と捉え、最初のステップとしてサーチファンドをやるという人もいます。また、地方の事業承継問題を解決する手段の一つとの見方もあります。

人によって見方が異なるだけで、どれが正解ということではないと思います。その中で私は、サーチファンドを地方創生にとても有効なソリューションだという見方をしています。

地方が抱える社会課題

地方が抱える社会課題として、優秀なプレイヤーが圧倒的に不足していることが挙げられます。ここで言う優秀なプレイヤーとは、事業の要点を理解し、打ち手を考えることができ、周囲を巻き込みながら実行できるリーダーシップのある人、一例を挙げると売上数億円以上のPL責任を負えるような人材のことです。

このようなプレイヤーが地方にはあまり多くないという印象を持っています。

一方で、行政の支援策や資金の出し手など、地方にプレイヤーをサポートする環境がないわけではありません。会社の中で、あるいは経営者として成果を出し、会社を成長させていけるようなプレイヤーが不足していることが、地方の低成長につながっているのではないか、と考えています。

「サーチファンド」ができること

こうした課題に対してサーチファンドができることとは、「事業承継を通じた経営の民主化」だと思っています。経営というと、起業するか、家業を継ぐか、長い出世の先にあるものといったイメージが強く、なかなか携わる機会がないと感じる人が多いかもしれません。

しかし、サーチファンドを普及させることで、やる気と能力がある人材が企業を買収・承継し、経営者になるという新しいキャリアができます。そうした人材は優秀なプレイヤーとして、地方を盛り上げていくことができます。サーチファンドがその一つのパスになり得ると感じています。

私は、サーチファンドの成功事例と言われるようなインパクトを残し、都会で燻っている優秀なビジネスマンに「自分にもできるかもしれない」と思ってもらえる空気感を作りたいと思っています。それが全国に広がれば、日本全体が盛り上がっていくのではないか、と考えています。

「サーチファンド」の可能性

サーチファンドの可能性として、地方に人を呼び込めることが挙げられます。

もちろん現在でも、他の方法は複数存在します。例えば地域優良企業へ転職したり、副業として関わったりする方法が考えられますが、その中でサーチファンドが特に優れている点は、代表取締役社長として会社のトップの立場で関わることができる強いコミットメントや、単なる雇われ社長ではなく株主としても事業に関われる点にあると考えています。

本腰の入れ方や本気度と言う意味で、他の関わり方とは大きく異なり、やる気がある人のポテンシャルを最大限に引き出す仕組みになっていることがサーチファンドの大きな強みだと思っています。

また、地方で起業する方法もあります。私自身、起業に挑戦したこともありますが、簡単にはいかず、起業自体が非常に難易度が高いものでかなり生存確率が低いものだと実感しています。それに対して中小企業を買収して経営する方法は、これまで企業でしっかり経験を積んできた人であれば比較的再現性の高い試みになると思います。この再現性の高さもサーチファンドの可能性の一つだと考えています。

他にPE等から採用され経営者となるパスもあります。その場合は投資期間が比較的短かかったり、収益の絶対額を出す必要性から企業規模が限定されるという側面を考慮すべきでしょう。

これらの選択肢はいずれも地方に人を呼ぶ手段と言えますが、その中でサーチファンドはユニークで非常に有力な手段の一つであると私は考えています。

「サーチファンド」の課題

一方でサーチファンド自体にも課題があると感じています。あくまで私個人の見方ですが、地方創生の手段として考えた時に、課題は大きく2つあると思っています。

1つ目は、サーチャーと投資家の関係です。株式に関わる経済的なリターンは投資家とサーチャーで分け合う構造なので、ある意味、ゼロサム的な側面がありますが、その中でサーチャー側が不利になるように設計されたケースもあると聞きます。人を呼び込む仕組みとして考えるなら、確固たる成果を残した場合ですが、サーチャーのリターンが厚くなればなるほど、引力もまた強力になるのではないかと思います。

2つ目は「サーチファンド」という名称そのものです。例えばファンド・オブ・ファンズやアクセラレーターと混同して使用されたり、アメリカの事例を前提とした原理主義的な考えが跋扈(ばっこ)している場面があったりします。実際に買収を進める上でも、サーチファンドという名前ゆえに通常のファンドと混同され、売り手が混乱し、かえって話が進みにくくなる場合もあると感じています。

私は、サーチファンドの仕組みや考え方はとても素晴らしいものだと感じています。だからこそ、名称をガラッと変えつつも、そのエッセンスをしっかりと宿した新しい仕組みが地方創生には必要ではないかと考えています。

皆さまへのお願い

最後になりますが、私はサーチファンドに関わる中で、その大きな可能性を感じてきました。そして、この可能性を地方創生や地域経済振興にぜひ生かしていきたいと思い、サーチファンドのエッセンスを詰め込んだ、でも「サーチファンド」ではない新しい仕組みを作っていけたら、と考えています。

もし、同じような思いやパッションを感じてくださる方がいらっしゃれば、ぜひお気軽にご連絡いただき、ディスカッションできれば幸いです。本日はありがとうございました。

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この記事を書いた人

スーツアップの広報担当です。スーツアップは、AIでかんたん、チームで毎日続けられるプロジェクト・タスク管理ツールです。表計算ソフトのような操作で、チームの「タスクの見える化」をして、タスクの抜け漏れや期限遅れを防ぎます。チームのタスク管理を実現することで、業務の効率化やオペレーションの改善が進み、大幅なコスト削減を実現します。

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