リーダーシップ往復書簡 084
リーダーシップ往復書簡 084
長年にわたり経営者という役割を果たしていると、誰かに嫌われることより、誰かを気にかけて好きになる(愛する)ことの方が遥かに難しいと思わされます。
以前、メンターの方が、問題あるスタッフを捕まえて、「あなたの人格を否定しているのではなく、行動を変えてもらいたいのだ」という話をしているのを聞いて以来、私も誰かの行動を注意する際はこの言い回しを使わせてもらっています。
リーダーには、夢や目標のために、フォロワーを成長させることが求められます。しかし、いくら夢や目標のためという大義名分があったとしても、行動を否定されて嬉しい人はいません。そのため、せめて丁寧に人格と行動を分けて説明し内省を促すわけですが、それでも残念ながら嫌われてしまうことがあると思います。
特に私は企業再生を仕事にしてきたので、今まで数百人の方に直接通告してリストラをしてきた経験があります。もちろん会社が行き詰っており、資金繰りの観点からいかんともし難い状態だったためにリストラをしてきたわけですが、リストラされたスタッフからすれば、私のことを恨み骨髄に徹していたことでしょう。
リストラについては、私にはあまり感情的なところはなく、経営危機にある会社の経営者としての役割を果たしているに過ぎません。「感情的ではない」「役割を果たしているに過ぎない」という表現も私の自己防衛的な心持ちからくるものかもしれませんが、正直なところ、少しでも多くのスタッフや取引先企業の雇用を守るという目的があるため、恨まれるのもやむなしとも思っています(むしろ、リストラされた人の恨む矛先も経営者の役割と考えています。)。
このように長い間、経営者をしていると、他人に嫌われることや恨まれることに対する耐性はどんどんついていくわけです。しかし、冒頭に記載したとおり、誰かを気にかけて好きになる(愛する)ことは本当に難しいのです。
気にかける、好きになる、愛する・・・これらは、自らが主体性を持って取り組まねばできないことですし、頭で考える以上に大きなエネルギーを必要とするのです。もしかするとリーダーにとって、夢を描いて、不特定多数の世のため人のためを語るほうが楽かもしれません。
以前もご紹介したとおり、マザーテレサは「愛の反対は憎しみではなく無関心」と述べましたが、毎日限られた時間の中で、自分以外の特定の人に興味を持つことの難しさを感じています。それと同時に、これはリーダーとして向き合わなければならない本当に重要な課題だとも捉えています。
リーダーシップについて疑問がある、質問をしたいという方がいらっしゃいましたら、コメントや個別にメッセンジャーでご連絡ください。
また、コメントも大歓迎です。もし興味ある人がいれば、これを酒の肴に一杯やりましょう!
[no_toc]
【Q.84】
会社経営で特にリーダーシップが必要だと考えるのは、どのような時でしょうか?
<コメント>
会社が危機的状況にあって、一見、合理的・論理的に考えたら問題解決できないような状況にある時です。
常日頃からリーダーシップが必要であることは言うまでもありませんが、やはり危機的状況においてこそリーダーシップが求められます。
もちろん、合理的・論理的には「詰んでいる」状況なので、この状況で白旗を上げたとしても、誰からも責められることはないでしょう。リーダーが諦めたら、そこでゲームセットになってしまうわけです。
もしリーダーが諦めなければ、例えば、来月資金ショートするような状況であっても、投資家を説得してまわって、投資家から新たな投資資金を引き出したり、取引先や金融機関に対して支払いを繰り延べてもらったりすることができるかもしれません。
リーダーが、正しくリーダーシップを発揮すれば、最後は人が動くか動かないかという「人の問題」に収れんします。もし人を動かすことができれば、問題解決できる場合もあるのです。
なお、このようにつらつらと書きましたが、私の実務感覚としては、そう都合よく、危機的状況の時だけリーダーシップを発揮するというわけにはいかないようにも思います。
やはりリーダーシップも日頃から板についていないと勝負どころで正しくリーダーシップを発揮できず、人が動かない、つまりは、誰かが救いの手を差し伸べてくれることはないように思います。
※この記事は、2021年5月3日付Facebook投稿を転載したものです。