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中小・中堅企業のプロ経営者のリアル

 

投稿日:2023年1月26日 / 更新日:2024年2月18日

 

本稿は、2023年1月26日に株式会社スーツにおいて開催された「中小・中堅企業のためのプロ経営者育成講座」(講師:株式会社スーツ 代表取締役社長CEO 小松 裕介)をダイジェスト版に加工した記事の第5回です。

第4回 中小・中堅企業のプロ経営者の影響力の獲得方法

 

【まとめ】

 

中小・中堅企業のプロ経営者のリアル

 

残りの時間を質疑応答に充てたいと思っておりますので、ご質問のある方はおっしゃってください。後日、本講座の内容はホームページやnote等で発信してまいりますので、掲載NGの方は、予めおっしゃっていただければと思います。

 

Q1:私は二代目経営者として会社経営をしているのですが、小松さんは、プロ経営者として、どのようなモチベーションでバリューアップをしているのでしょうか?

 

<回答>

私の場合は、会社経営やバリューアップという仕事そのものが好きということがあります。なぜこの仕事が好きかというと、テレビドラマにもなった漫画「ROOKIES」のような世界観だからです。特に企業再生の案件では、最初は個人の仕事に対するモチベーションが低かったり、会社にいるスタッフの心がバラバラだったりします。この状態からチームを、リーダーシップを発揮してまとめあげ、その結果、組織が自走して、売上・利益が上がって良い会社になる。この過程が私は好きなのです。

本講座に参加して下さっている皆さんは素晴らしいキャリアで優秀な方が多いので、それに加えて、熱量の高さ、利害関係のない中でも人を動かすリーダーシップの重要性を感じ取ってもらいたいと思います。これらによって、多くの人を巻き込んで仲間にしていくのです。

私はよくクライアント企業の社長に言うのですが、社員と膝を突き合わせて「こういうのをやろう!とか、社員と話していますか?」と聞くと「やっていない」という方が多いです。私が今まで見てきた中小・中堅企業はそれをするだけで良くなるものです。

中小・中堅企業もスタートアップや新興市場に上場する会社も、大半の会社は100名もいない組織です。社員数100人だったら、分かりやすく1日1名ずつ話をしていって、1on1を100回しても、たったの100日、約3か月で完了します。毎食、社員とご飯を食べる。それだけでも会社は良くなります。その時に「一緒に会社を良くしよう」という話をする。それだけです。

私の仕事に対するモチベーションですが、人が再生するとか人が成長するとか、こういった過程が好きなのです。会社が停滞していると、やる気が下がっているとか、社内政治が酷いとかがあります。そういう人たちがもう一度、立ち直って、「やっぱり仕事は楽しいですよね」「会社も仲間もいいものですよね」というように前を向いてくれるのが楽しい。私のモチベーションはそういうところにあります。

 

Q2:企業再生の案件に入られた時に、この状況、業種業態は少し難しかったなということがあれば教えていただきたいです。

 

 

<回答>

私も約20年、このような仕事をしてきまして、もちろん企業再生の案件以外にも、平時のバリューアップの案件にも関与させていただいています。そのような中で、YouTuberプロダクション「VAZ」の企業再生は難易度が高い案件だったと思います。

当時、ファンド・投資家や同業者の友人たちからも「なぜYouTuberプロダクション『VAZ』の社長をやるのか?」と言われました。VAZについては、学生起業家だった創業者がVAZを創業した1、2か月後くらいから私は顧問として関与しておりまして、同社の多くの株主も、当該創業者と私が一緒になってお願いしに行って投資していただいた経緯もありました。しかし、なぜあの局面で社長を引き受けたのかと聞かれれば、最終的には、VAZの社長は、職業人としてチャレンジングだったので引き受けたという答えになると思います。

YouTuberプロダクションとか芸能プロダクションというビジネスは、人が人を売る商売です。YouTuberというスターを、マネージャーはじめ事務所が一丸となってサポートして売っていくわけです。人が人を売るわけですから非常に難易度が高い。逆にいえば、人しかいないわけですから、所属YouTuberや事務所スタッフの全てに、組織崩壊リスクがあるのです。だからチャレンジしてみたいと思って社長を引き受けました。

しかし、実際に社長を引き受けてみると、あんまり他の業種業態の企業再生と変わらなかった印象でした。結局、企業再生の過程でやったことと言えば、そこにいる人たちと向き合って「ちゃんと一緒に良い会社にしましょう」という話を泥臭くしただけです。これはスタートアップも企業再生も、普通の平時の会社であっても、経営者がやることは変わらないと思います。ただ、今言ったことは決して楽なことではありません。一人ひとりに膝を突き合わせて「一緒にやろうぜ」は大変ではありますよね。

本講座の受講者には既に社長を経験されていらっしゃる方が多いですが、これから起業する人、社長の地位に就く人は、営業先であったり株主であったり沢山のステークホルダーがいる中で、身内なのだから社員ぐらい「言うこと聞いてよ」と思うのではないかと思います。社長からすれば、社員は同じ船に乗っている仲間だと思っているからそう思うわけです。でも残念ながら実際の社員は同じ船に乗っていると思っていない人も沢山いるわけです。船長と船員じゃ立場が違いますから見えている景色も違います。船長が沈没しないように、事故に合わないように安全航行を目指していたとしても、船員は毎日、毎日同じように船を漕ぐのは嫌だなと思っていることもあるわけです。でも、その時に「あなたも同じ船に乗っているんだから、一緒に頑張ろう!」とその一言を言えない社長が多い。

どんな業種業態、成長ステージの会社もやはりあまり変わらなくて、最終的に大事なことはそこにいる人たちと泥臭く向き合えるか。そこには社員も、お客様も、株主も、みな立場は関係ないのです。その人、その人と向き合うことができるかどうか。これが本当の戦いです。

先ほど、特に中小・中堅企業で勝負したいのだったら「忖度が大事ですよ」という話をしましたが、気を遣うことも大事ですけれども、ちゃんとストレートに「一緒にやろうよ」という話もしなければなりません。「人を見て法を説け」とも言いましたが、確かに一人ひとりに合わせた言い方は必要ですが、伝える話の本質的な中身は変わらないわけです。例えば、抽象的な話の苦手な人に対して、話を難しく話しても伝わりません。若者に話をするならば、中長期的に夢のある話もしなければいけないでしょう。逆に目先に困っている人に対して中長期的な話をしても受け入れてもらえません。本質的な話の中身は変わらないけど、メリットやデメリットなどの捉え方は人それぞれです。それぞれ誠実に話をすることが一番大事だと思っています。

 

Q3: プロ経営者という存在は“雇われ経営者”であるとも思うのですが、小松さんのように既に独立して経営コンサルティング会社を経営している方が“雇われ経営者”になるのが不思議です。自分で起業して会社経営をすることと、メリットやデメリットはどのようにお考えですか?

 

<回答>

そのご質問はよくいただきます。メリット・デメリットでいうと、野球とサッカーを選ぶようなもので同じ種目ではないため比較は難しいかもしれません。“雇われ経営者”でもあるプロ経営者か、創業オーナーであるスタートアップ経営者か。サーチファンドの広がりはまさに似た論点だと思っています。MBAを取ったけれども、大企業ではやりたい経営の仕事がなかなかできなくて、だからといってスタートアップを創業したりスタートアップに転職したりしても、いわゆる“ゼロイチ“(※「0から1へ」の新規事業の立上げなどに使われる)だから経営スキルが活かせない。やはりプロ経営者とスタートアップ経営者とではスキルが違うのですね。違いばかり強調される両者ですが、共通事項も沢山あって、特に本講座で私が沢山話したリーダーシップなどは最たる例だと思います。もしスタートアップ経営者がリーダーシップを発揮しなければ、資金も人も集まらないですし、そもそもビジネスそのものが始まりません。

中小・中堅企業のように経営資源が不足している規模の会社はリーダーシップがなければ本当に回らない。大企業のプロ経営者であれば、私が話をしたような無茶苦茶なリーダーシップがなくてもできると思います。もちろん他に、他の人が納得するような素晴らしいキャリアであったり大企業で敵を作らない政治力、卒なく何でもこなすことができる能力であったり、私なんかには備わっていない素晴らしい能力も代わりに必要だとは思います。例えば、海外MBAを取ったりとか、場合によっては弁護士・公認会計士などの難関資格を保有したりしながらサラリーマンで出世の階段を上っているなど特異な素晴らしいスーパーキャリアな方は、大企業でのプロ経営者を十分に目指せると思います。

しかし、中小・中堅企業でプロ経営者を目指すのだったら、案外スタートアップ経営者と働き方・求められている資質は変わらないかもしれません。もちろん中小・中堅企業のプロ経営者と比べたら、スタートアップ経営者のほうがリーダーシップは求められると思います。先ほどのとおり、本当にないない尽くしのところから、投資家や仲間に事業計画を持って行って、お金や人を集めて事業にしていくことが求められているわけですからね。リスクとリターンに関しては、中小・中堅企業のほうが、スタートアップよりも事業体がしっかりしていますから、プロ経営者の方がリスクが少ないのは確実です。一方でその分、リターンも少ないです。スタートアップ経営者は、ビジネスモデル自体が何もないところからスタートしていますので、ハイリスク・ハイリターンですよね。

あと重要なことは、何をやりたいか、ですよね。昔と違って、スタートアップ経営者でもハイキャリアな方が増えてきていて、私が経営している株式会社スーツでも、もともと西村あさひ法律事務所で働いていた弁護士が、「経営の勉強をしたい、修行したい」と言って、参加してくれたことがありましたが、彼は今、起業家として不動産ベンチャーの経営をしています。私の感覚だと、彼のように非常に優秀なビジネスマンは、既にビジネスモデルが出来上がった会社の経営者になって、合理的な意思決定を繰り返して良い会社にする、という方が、確実に企業価値向上を果たすことができるはずなのです。しかし、昨今のスタートアップ・ブームということもあるのでしょうが、「一度きりの人生だから、やってみたいんです!」と言って、ベンチャー業界で物凄く頑張っています。このように、やはり自分がどのようなキャリアを歩みたいか、どういう経営者人生を選びたいかというところが重要ですよね。

 

Q4: 「マネジメントシステム構築の時にいろいろな項目で70点以上を目指す」という話がありましたが、70点を取ることすら嫌がる、モチベーションが低いスタッフもいると思います。そもそも苦手だから避けているわけで、反発があると思うのですが、そういった時はどのような調整をして70点を取りにいくのでしょうか?

 

<回答>

それこそ経営者の腕の見せ所ですね。人間は変化を嫌がります。ですので、何かを変えようと思えば多かれ少なかれ反発が生じるものです。経営改革を長年の仕事にしている私からすれば、激しい反発によって改革がスタックしてしまうのは、やはり進め方が良くないだけです。経営者の責任ですね。改革の内容、関係者、効果、そして、難易度を考えて、タイミングを計って進める。例えばプロ経営者としてその会社の経営に参画したばかりで、すぐにトップダウンでドーンと難易度の高い改革の指示を出したら、もしたとえそれがロジカルに正しいとしても、それは上手くいきませんよね。

私が企業再生を行う場合は、8:2の原則、パレートの法則を意識します。私がやってきた感覚値ですと、2:6:2ぐらいで組織の人は色分けできると思います。やる気のある20%、やる気がない、もしくは、反発する20%、そして、ポリシーは特になく長いものに巻かれる60%です。経営改革を行う場合は、まずは上位20%を口説くことです。中小・中堅企業で50人の会社ならば20%で10人です。その10人とご飯を食べに行って、会社を良くするため、それこそ会社で働くみんなのために、その改革が必要であること、改革の意義をしっかりと伝えなければなりません。そこが勝負どころです。

経営者なのですから、サシの勝負に負けてはいけません。地位ある人、表向きもしっかりと権限と権威のある人が正しいことを言っていれば、進め方さえ間違えなければ必ず前に進ませることができるはずです。リーダーシップだけではなく、地位に基づくパワーまで持っているわけですから、組織の変化を嫌がる人々を少しずつでも変えていく存在にならなければなりません。そこが腕の見せ所ですね。

 

(続く)第6回 中小・中堅企業のプロ経営者への道

 

【中小・中堅企業のためのプロ経営者育成講座】

第1回 プロ経営者は中小・中堅企業で活躍する時代へ

第2回 中小・中堅企業のプロ経営者の目指すべき人物像

第3回 中小・中堅企業のプロ経営者とはリーダーである

第4回 中小・中堅企業のプロ経営者の影響力の獲得方法

第5回 中小・中堅企業のプロ経営者のリアル

第6回 中小・中堅企業のプロ経営者への道

 

※ 「経営支援クラウド」「Suit UP」及び「全社タスク管理」は株式会社スーツの登録商標です。

 

株式会社スーツ 代表取締役社長CEO 小松 裕介

2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、東証スタンダード上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社の前身となる株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より、総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。2019年6月より、国土交通省PPPサポーター。
2020年10月に大手YouTuberプロダクションの株式会社VAZの代表取締役社長に就任。月次黒字化を実現し、2022年1月に上場会社の子会社化を実現。
2022年12月に、株式会社スーツを新設分割し、当社設立と同時に代表取締役社長CEOに就任。

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