田中 宏明氏(株式会社GOF 代表取締役/弁護士)と小松 裕介(株式会社スーツ 代表取締役社長CEO)によるQ&A

当社では、2025年8月6日にゲスト講師に、株式会社GOF 代表取締役/弁護士 田中  宏明氏を迎え、第14回目となるスーツアップ特別ウェビナー「中堅・中小企業の再生とガバナンス〜製薬会社の実例 そしてM&A仲介会社」を開催しました。

本稿では、中小企業の皆様にとって有益な情報が満載だった本ウェビナーの内容を、前編・後編の2回にわたりダイジェスト版としてお届けいたします。

後編は、ゲスト講師の田中氏(株式会社GOF 代表取締役/弁護士)と当社代表者の小松(株式会社スーツ 代表取締役社長CEO)による対談の内容です。田中氏のご経歴は以下の通りです。

<株式会社GOF 代表取締役/弁護士 田中  宏明氏> 

弁護士業務に従事した後、内外資投資銀行にて不良債権投資を皮切りに事業再生投資業務を行い、ファイナンス全般及び事業運営についてのキャリアを積む。リーマンショックを経て弁護士としてM&Aや事業再生案件を中心に多数の案件に携わり、2016年に株式会社GOFを設立し、「法務×金融×事業」の経験を踏まえベンチャーや中堅企業、上場企業まで多様な業態への経営支援を実行。現在、株式会社リビングプラットフォーム社外取締役、株式会社エネコートテクノロジーズ監査役、株式会社M&A DX 社外取締役。

前編のゲスト講師の田中氏による講演「中堅・中小企業の再生とガバナンス〜製薬会社の実例 そしてM&A仲介会社」はコチラから。

まとめ

  • 不正の兆しはあったが、声を上げられない風土が広がっていた
  • 制度があっても、心理的安全性がなければ機能しない
  • 現場の声を制度に落とし込む仕組みが重要
  • 自分を活かせないなら、場を変える選択もある
目次

対談内容

不祥事を「引き戻せた」タイミングはあったのか?

株式会社スーツ 小松裕介(以下「小松」といいます。):
田中さん、本日は貴重な講演をありがとうございました。 今回のお話で、企業風土や心理的安全性といった抽象的なテーマが非常に言語化されていたと感じています。その中でも印象的だったのが「戻れたタイミング」という観点です。

小林化工のケースでは、社員が声を上げなくなっていく、いわば“独裁国家化”していくプロセスが描かれていましたが、会社として“引き返せたタイミング”は、どこかにあったとお考えですか?

株式会社GOF 田中宏明(以下「田中」といいます。):
はい、実際にそれはあったと思います。調査報告書にも記載されていますが、業界全体に大きな不祥事、いわゆる「化血研事件」が起きたことがありました。

当時、行政当局は製薬業界全体に広まっていたの構造的な問題を把握していて、「今の製造方法に違法性があるなら申告しなさい。そのうえで、品質が担保されているなら製造プロセス変更のルールを緩和する」という方針を事実上示していたんです。

つまり、当局の姿勢に沿って適切に申告すれば、むしろ問題の解決につながるような環境が用意されていた。ですが、小林化工は地方にある中堅企業ということもあり、中央官庁の動きを適切に把握するだけの情報収集力がなかった。

そのため、このチャンスを見送ってしまい、結果としてさらに不正を隠す方向に進んでしまった。

もし「戻れたタイミング」があったとすれば、それがまさに一つの分岐点だったと思います。

小松:たしかに、昨今のテレビ業界の不祥事でも、「テラスハウス事件」のあった10年前に戻れていればという話もありますので、そうした構造的な分岐点があったのは重要ですね。

ちなみに、企業風土という観点では、例えば外部の投資家が入ったり、銀行の関与が強まったり、当局からの圧力が増したりしたタイミングで、風土ごと引き戻せるチャンスはなかったのでしょうか?

田中:おっしゃるとおり、企業風土という意味での「戻れたタイミング」も存在したと思います。実際、社内ではある時点から違法行為が行われていることを一部の人たちは把握していて、それを正そうという動きもありました。

ただ、構造的な問題がありました。小林化工にはオーナー家がいて、その下に番頭格の人物がいたのですが、この番頭格が非常に高圧的で、マイクロマネジメントを行うタイプでした。そして、その人物に実権が集中していたのです。

オーナー家が「これはおかしい」と認識したとき、本来であれば、たとえ目の前の利益を犠牲にしてでも、「人命に関わる製品なのだから、正しく作ろう」という判断を下すべきでした。しかし、それができなかった。経営者としての資質、覚悟が問われる局面だったと思います。

そしてもう一つ大きいのは、その経営者の近くに「それは違う」と言ってくれる右腕や左腕、あるいは第三者的なアドバイザーがいなかったことです。つまり、経営者の判断を補正する人材が不在だった。これは組織にとって致命的です。

中堅中小企業における“あるべきガバナンス”とは

小松:このウェビナーは「中小企業の経営アップデート」というテーマでお届けしているのですが、今日の小林化工の話から得られる示唆を、少し一般化して考えたいと思っています。

特に中堅・中小企業では、創業オーナーが株も経営も握っており、強大な影響力を持つケースが多いです。そのようなステークホルダーの少ない組織において、先生はどのようなガバナンスのあり方が望ましいとお考えでしょうか?

仮に、ちょっとevil(邪悪)な創業者がいた場合、どう進めていくのがよいのでしょうか。

田中:創業者というのは「使われるのが嫌だから独立した」という方が多いんです。特にゼロから起業した方や、家業を当然のように継いだ方にとっては、自分の正しさを疑うことが非常に難しい。そこが課題なんです。

ただ、それでも私が常に申し上げているのは、「耳の痛いことを言ってくれる部下を側近に置きなさい」ということです。

もちろん、すべてに従えということではありません。でも、違和感やリスクを感じたときに意見を言えるような人を、身近に配置し、その声に耳を傾ける。そういう修正力のある姿勢が、結果としてガバナンスになると思います。

私自身がアドバイザーとして企業に関わる際も、こうした対話の機会を定期的に持つ「会議体」や「場」を設けて、業務改善を図るようにしています。

小松:やはり企業風土はトップ次第という話に行き着くのでしょうか? たとえばオルツ社の事例にもありましたが、最終的には経営者の姿勢次第なのかと感じました。

田中:おっしゃるとおりで、トップが本当にダメだった場合、正直どうしようもないです。
ただ、それでも私は「下の人間が勇気を持って声を上げること」も大事だと思っています。

ただし、それを当然のこととして求めるのは酷です。心理的にも現実的にも厳しい。だからこそ、私が小林化工で関わった方々、最終的に転職された方々にも伝えたのは、次の会社ではまずちゃんと仕事をして、3年以内に「何かおかしい」と感じたら声を上げなさい。それでも変わらなければ、会社を変えるしかないと。

つまり、「声を上げてみる → 聞きいれられない → その場を離れる」という選択を、自分で持っておくことが、最終的には自分の身を守ることになる。これは働く個人へのメッセージとして、非常に重要だと思っています。

制度があっても機能しない理由

小松:今の時代、私はポイントが2つあると思っていて、一つは「労働人口が減って、従業員側が職を選べる時代になってきた」ということ。だからこそ、経営者が悪ければ辞めるという選択肢も以前より現実的になったと思うんです。

もう一つは、最近の不祥事の流れを踏まえると、「公益通報」や「内部通報」の制度ですね。このあたりの整備・活用について、先生はどうお考えでしょうか?

田中:おっしゃる通り、制度として整備すること自体は非常に大事だと思います。公益通報や内部通報の仕組みをしっかり用意しておく、というのは必要条件です。ただし現実には、制度があっても機能しない場面が非常に多い。
経営陣が握り潰す、無視する、軽視する。これは残念ながら、どの業界でも一定数見られます。フジテレビのケースも象徴的でしたよね。

ですから、「制度を整えること」は大前提として、それが実際に活かされるかどうかは、やはり経営者の姿勢次第。それが一番大きいと思っています。

小松:なるほど。ありがとうございます。
関連して、今日のウェビナーには弁護士の方も視聴されているので、ちょっと伺いたいんですが、当時、小林化工には顧問弁護士のような法務の専門家はいたのでしょうか? そういう人たちは、問題に気づかなかったのか、それとも適切なアドバイスをしていたのか、どんな状況だったんでしょうか。

田中:私が把握している限りでは、適切なリーガルアドバイザーは実質的にいなかったようです。むしろ、外部資本としてオリックスが入ってから、初めて整った制度がいくつか導入されたという状況でした。たとえば、公益通報の制度なども整備されましたが、結局それでも機能しなかった。
制度があるだけではダメで、それを活かす組織の土壌がなければ意味がないという典型です。

監査役に関しても、実質的には税務申告を主に担当していた税理士や会計士が務めていて、本来的な意味での内部監査の機能はほぼ働いていなかったようですね。

小松:まさに空洞化したガバナンスですね。


田中:そうなんです。しかも、小林化工は売上400億円規模、従業員750人という大企業規模だったんで、すごいですよね。

本来なら、その規模になる前にどこかで問題が顕在化して崩れてもおかしくないのですが、先ほど申し上げたように、国の政策にうまく乗ってしまって売上がどんどん伸びた。利益も出ていたので、問題が収益に隠されてしまった。そこが最大の悲劇だったと思います。

小松:先生のスライドの中でも「コンプライアンス教育だけでは足りない」というお話がありました。特に心理的安全性が重要という点が非常に印象に残りました。

この心理的安全性をつくるために、経営者としてどんな努力や工夫が必要だとお考えでしょうか?

田中:これはもう本当に多くの会社で工夫されています。社員の声をちゃんと聞こうとか、HR的な観点で言えば、悩みや不満にも耳を傾けること。こういった姿勢がなければ、結局は離職が増えてしまうというのが実情です。

ただ、それ以上に大切なのは「本音を言えるかどうか」です。これができなければ、いくら制度を整えても意味がありません。そして、その本音を引き出すために一番大事なのは、「言ってくれてありがとう」と評価することです。

つまり、「問題を見つけてくれてありがとう」「指摘してくれて助かった」と、改善志向を前向きに捉える文化を、評価制度に組み込むんです。単に言ったことではなく、課題を発見し、変えようとした姿勢を評価の対象にすることが非常に重要です。

加えて、それを評価できる管理職、つまり評価者の教育も欠かせません。評価者に対しても「改善提案をどう評価するか」「ネガティブな声をどう扱うか」という教育を、意図的に行う必要があります。そして何より大切なのは、そうした取り組みをやり続けることです。一度制度を作って終わりではなく、継続的に浸透させる姿勢こそが、心理的安全性を育てる唯一の道ではないかと、個人的には考えています。

小松:小林化工の話を聞いていて、正直意外だったなと感じたんです。というのも、薬という命に関わるような商品を扱っていて、しかも規制業種であり、社員も相当数いる。こういった環境で不祥事が起きるというのは、やはり非常に稀で、社会問題としてのインパクトも大きいと感じました。

逆に、たとえば先ほど話に出たオルツ社のような事例は、ある意味では業種としては“軽い”というと語弊があるかもしれませんが、小林化工と比べれば比較的影響範囲の小さい領域かなと思います。

そういう観点で、不祥事が起きやすい業種・業態というのは、先生の中でなにか傾向のようなものがあると思われますか?

田中:これは非常に難しい問いではありますが、あえて言えば業種業態で一概に括ることはできないと考えています。

たとえば、規制業種においては基準が非常に厳格に定められているため、それを守りきれずに違反が発生すると「不正」「不祥事」という扱いになることが多いんです。
つまり、守らなければいけないラインが高いために、結果として違反のラインも明確で、違反すれば即アウトという構造です。

欧州などでもよく見られるのが、たとえば環境規制に関する性能不正。排ガス規制に関するケースなんかが象徴的です。基準が厳しい分、それをクリアするために誤魔化すという誘惑が生まれやすくなります。

ですので、業種業態で「ここが危ない」と特定するというよりも、それぞれの業界に応じた脆弱性のポイントがあるという理解のほうが適切かと思います。

質疑応答

参加者A:製薬業界という特殊性のなかで、社長としてどう向き合っておられたのか。また、再生の過程で社員の方々がどう変化し、本音で仕事をするようになっていったのかについて、お考えをお聞きしたいです。

田中:ありがとうございます。まず前段のご質問についてですが、ご指摘のとおり、製薬業は非常に特殊な規制業種です。特に大きいのは「薬機法」によって、製造プロセスそのものが許認可の対象になっている点です。

たとえば、一般的な業務改善であれば「Aというやり方をやめて、明日からHというやり方に変えよう」と柔軟に変えられますよね。でも、製薬の場合、それを実行するには「承認申請→審査→許可」が必要なんです。すぐに変えたくても、規制のために動けない。
これは、正確な知識を持つ社員ほど理解していて、でも手が出せない。そのジレンマがとても辛かったのだと思います。

そして、2つ目のご質問についてですが、小林化工の再生には、段階がありました。まずは「きちんとした薬を製造再開し、国からの認可を得る」ことを全社員の共通目標に設定しました。これを“みそぎ”として、皆が前向きに団結できたのだと思います。次の段階では、会社の事業を沢井製薬に移管した後、「もう会社はなくなるけれど、薬の品質保証は続けなければならない」という責務が残りました。本来なら会社が消えれば終わりですが、製薬業ではそうはいきません。国と交渉して、1年かけて責任を果たすスキームを整えました。

このフェーズでは、社員個人の意味づけが非常に重要でした。「この会社で働いた意味は何だったのか?」「この経験を次の職場にどう活かすか?」という問いを社員一人ひとりに投げかけました。
自責で考える、前向きに捉える、そして、終わりをきちんと迎える。
結果として、タイトなスケジュールの中でも、社員が自ら成長しながら幕を引けたと感じています。

参加者A:すばらしい取り組みですね。本当にご苦労が多かったと思いますが、社員の意識の変化まで丁寧に導かれていたことがよくわかりました。

ご案内

本記事は、中小企業の皆様向けに開催したスーツアップ特別ウェビナーの内容をダイジェスト版としてまとめたものです。

当社では、毎月2回、中小企業の経営者やご担当者様に向けて、 日本経済の中心である中小企業等の経営改善に貢献できるようなテーマのウェビナーを主催しております。

過去のウェビナーでは、第一線でご活躍されている経営者や専門家の方々をゲスト講師にお迎えし、中小企業を取り巻く経営環境、マーケティング、デジタル・トランスフォーメーション(DX)、労働生産性の向上に繋がるマネジメントシステムの構築、M&Aなど、多岐にわたるテーマでご講演いただいております。

今後のウェビナー情報や過去のアーカイブについては、当社WEBサイトをご覧ください。

【中堅中小企業の再生とガバナンス〜製薬会社の実例 そしてM&A仲介会社】
 
「中堅中小企業の再生とガバナンス〜製薬会社の実例 そしてM&A仲介会社」(ゲスト講師:株式会社GOF 代表取締役/弁護士 田中  宏明)

田中  宏明(株式会社GOF 代表取締役/弁護士)と 小松裕介(株式会社スーツ 代表取締役社長CEO)によるQ&A

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この記事を書いた人

スーツアップの広報担当です。スーツアップは、AIでかんたん、チームで毎日続けられるプロジェクト・タスク管理ツールです。表計算ソフトのような操作で、チームの「タスクの見える化」をして、タスクの抜け漏れや期限遅れを防ぎます。チームのタスク管理を実現することで、業務の効率化やオペレーションの改善が進み、大幅なコスト削減を実現します。

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