プロ経営者は中小・中堅企業で活躍する時代へ
本稿では、2023年1月26日に株式会社スーツにおいて開催された「中小・中堅企業のためのプロ経営者育成講座」(講師:株式会社スーツ 代表取締役社長CEO 小松 裕介)をダイジェスト版に加工したものを掲載いたします。
当社では、2014年12月の創業以来、時価総額100億円以下の中小企業やスタートアップ企業に対して、人材投入(ハンズオン)型経営支援を実施してまいりました。その結果、多くのクライアント企業様の企業価値向上を実現し、当社にも中小企業等の経営ノウハウが蓄積されました。
本講座は、この当社の中小企業等のバリューアップの経営ノウハウをまとめたもので、新型コロナウイルス感染症が発生する以前にも不定期で開催していたセミナーです。本講座そのものは、必ずしも現在、会社経営に従事している経営者のみを対象としたものではなく、(1)将来、経営者になりたい方、(2)内部昇格で経営者となる予定の方、(3)事業承継を控えている二代目の方や、(4)金融機関・経営コンサルタントなど広く中小企業等における会社経営を学びたい方を対象とするもので「初学者向けプログラム」となっています。
2023年2月以降は、毎月第4週目の火曜日20時からの開催を予定しております。中小企業等の企業価値向上にご興味ございます方は、是非ご参加いただければと思います。
【まとめ】
- 事業承継が社会問題になっている現在、中小・中堅企業では、二代目経営者でも内部昇格でもない、外部招聘経営者が不足している。
- 労働人口の7割が生産性の低い中小企業で働いている。日本経済のためには中小企業の経営者が頑張らなければならない。
- 強いリーダーシップがないと、中小・中堅企業で活躍するプロ経営者にはなれない。
- 中小・中堅企業だからといって、最先端科学と向き合わなくていいわけではない。経営学・科学をキャッチアップしないとプロ経営者とは呼べない。
プロ経営者は中小・中堅企業で活躍する時代へ
講師:株式会社スーツ 代表取締役社長CEO 小松 裕介(以下同じ):
それでは「中小・中堅企業のためのプロ経営者育成講座」を始めたいと思います。本日はこのような目次になっているのですが、今日は「プロ経営者」といっても会社経営に関するテクニカルな話をするというよりは、中小・中堅企業でプロ経営者としてよりバリューを出すためにはどのようにすればいいのかを中心に、初級編として中小・中堅企業での会社経営の全体像が分かるようにお話したいと思います。
前提にも記載しているのですが、今日の話の中では「メチャクチャ言いすぎじゃないか」という話もあります。普通のサラリーマン的な価値観と、やはり中小・中堅企業で経営をすることは「相いれない」ところが生じ得ると思っています。そのため、もし何か「メチャクチャ言ってるな」と思われても、そこはまずは1度話を聞いていただいて、そこからご自身で咀嚼していただければと考えています。
本日のセミナーには、10名強の方に参加していただいているのですが、ネット広告とかも一切しておらず、単純にSNSでポっと投稿しただけでお集まりいただいています。「初めまして」の方もいらっしゃいますので、改めて自己紹介をさせていただきたいと思っています。
改めまして、株式会社スーツの代表取締役社長CEOを務めております小松と申します。今まで私が何をやってきたかというと、約20年ぐらい、中小・中堅企業のバリューアップ、特に企業再生の仕事をやってまいりました。よく企業再生は難しいと言われるのですが、私は赤字会社を黒字にするところを多く仕事にしてきています。
静岡県伊東市にある伊豆シャボテン公園という動物園・植物園の再生、最近だとスタートアップの企業再生の案件でYouTuberプロダクションのVAZの再生、そして、クライアント名は出せないのですが、上場会社の企業再生なども手掛けてきております。
1.中小・中堅企業のプロ経営者を育てたい
私には中小・中堅企業で活躍するプロ経営者の育成をやりたいという想いがあるのですが、これは今、社会的にも強く求められていることです。事業承継が社会問題になっている現在、中小・中堅企業では、二代目経営者でも内部昇格でもない、外部招聘経営者が不足しているのです。このプロ経営者人材を育てたいという想いで、株式会社スーツという会社を約10年弱やっています。
あとは、中小企業のマーケットの改善、具体的には労働生産性の改善ということをやりたいと思っています。学生の時に社会の授業で習った中小企業の数ですが、日本の会社の99.7%は中小企業と言われており、残りのたった0.3%が大企業です。ポイントですが、労働人口の7割が実は中小企業で働いているんです。これから人口減により危機を迎えると言われている日本社会ですが、生産性の非常に低い中小企業で7割の人が働いているので、やはり日本経済のためには中小企業の経営者が頑張らなきゃいけないというのが今の状況です。中小企業の労働生産性を上げる、この中小企業のマーケットを良くすることが、日本のためになると思っています。
本講座には既に会社経営をされている経営者の方も参加してくださっているので、きっとその方たちは十分ご存じだと思うのですが、中小企業はやっぱり大企業と違って非常に脆弱です。それはビジネスモデルもそうですし、スタッフのレベル。そして何より、経営が弱いということがあります。
そのため、今日この講座にご参加いただいている皆さんに、ぜひともプロ経営者になっていただいて、それで中小・中堅企業を良くしていって、日本全体を良くしていってもらいたいと思っています。
2.中小・中堅企業のプロ経営者とはどのような人か?
冒頭から、プロ経営者、プロ経営者・・・と話をさせてもらっていますが、まずは「プロ経営者とは何なのか?」についてお話をさせていただきたいと考えています。
一般的には、プロ経営者とは、役員の人事権に影響力があるほど会社の株式は保有していないが、会社の企業価値向上、業績を良くするということで会社に雇われている会社経営のプロフェッショナル、傭兵だとか認識されていると思います。プロ経営者という表現は、株式シェアといい業績へのコミットといい、創業経営者との比較による部分が多いかと思います。事業承継の世界では、二代目経営者や内部昇格とも違う、外部招聘経営者とも言われます。
また、一般的にメディアなどで使われているプロ経営者という言葉は、一般の人が誰でも知っているような大企業で活躍する経営者に使われていると思います。本講座では、中小・中堅企業のプロ経営者というところがポイントです。私は中小・中堅企業のプロ経営者と大企業のプロ経営者とは違うと思っています。それは何かというと、強いリーダーシップがないと、中小・中堅企業で活躍するプロ経営者にはなれない、というところです。
大企業の場合だと、経営に関する知識と過去から続くしがらみを断ち切る少しの胆力があれば、例えば取引先企業の見直しによるコストカットやシステム投資によるオペレーション改善など経営を合理化することで利益の捻出ができます。しかし、そもそも中小企業だと余分な”ぜい肉”がないばかりか、経営資源すら社内にないことが多いわけです。そうなると、経営者がリーダーシップを発揮してヒト・モノ・カネの経営資源を社外から調達しなければなりません。そのため、大企業の経営より中小・中堅企業の経営のほうが、社内や取引先などではなく社外、より影響力を行使することができない“遠くにいる人”を動かさなければならないため、強いリーダーシップが必要になると考えています。
このような前提を踏まえた上で、私は中小・中堅企業の経営者をこのように定義しています。
「プロ経営者とは、会社経営に関する知識があることはもちろん、“修羅場の経験”があり、人間力に優れ、リーダーシップを発揮し、ステークホルダー全てに影響力を与え、企業価値向上を果たすことができる人物」だと考えます。
やはりポイントは人間力とリーダーシップです。人間力に優れ、ステークホルダーみんなから、「この人と一緒に仕事をしたい」、そう思わせられるような人間力とリーダーシップがないと中小・中堅企業のプロ経営者にはなれないと思います。
もちろんプロ経営者と名乗る以上、会社経営に関する知識は必要です。その知識は、MBAの教科書を読むとか座学の勉強で十分カバーできます。ただ、それだけではやっぱり足りない。やはり実際の会社経営は教科書通りには動きません。そこを意識しながら、今日受講しに来てくださっている皆さんには、会社経営と向き合っていただきたいと思います。
今日もいろんな方が参加して下さっています。それこそ大手の経営コンサルティング会社のコンサルタントの方もいらっしゃいますし、実際に既に会社経営を手掛けられていて順調に軌道に乗せられている経営者の方、大企業に所属されている方、ベンチャー企業の経営者の方もいます。大企業で活躍するプロ経営者と呼ばれる人たちは、海外でMBAを取得しているなど、素晴らしい学歴とキャリアの方が多いです。
ただ、中小・中堅企業のプロ経営者の場合だったら、別に資格とか学歴とかは本当に関係ないです。そういうバックグラウンドがなくても、人間的な魅力とリーダーシップがあればちゃんと会社経営ができます。様々な事例を考えてみても、やっぱり社内だけでなく取引先企業や地域社会などみんなをまとめ上げる、それこそ世のため人のために「この指とまれ!」ができる経営者が中小・中堅企業においてパフォーマンスを出せるのです。
マネジメントスキル、経営に関する単なる知識はもうコモディティ化しています。最近各所でChatGPTが凄い話題になっていますが、AIの進化は著しくて、単なる知識に関しては誰でも習得できる時代になっていると思います。そこで勝負する時代ではないですよね。そういった机の上の知識じゃなくて「さぁ、みんな。私と一緒にやろうよ!」だったり「私と一緒にこの会社を良くしましょう!」だったりが、会社経営で本当に大事なことになったと思います。
「プロ経営者とは何なのか?」というと、経営管理がしっかりできるマネージャーではなく、リーダーにならないといけない。特に中小・中堅企業のプロ経営者はそれじゃなきゃ務まらないと考えています。それこそ経営哲学がなきゃいけない。やっぱり中小企業のオヤジと話をするとなかなか面白いです。30年、40年プレイヤーの経営者の方にお話を聞くと、長年にわたり会社経営をしているだけの迫力があるものです。そういった話もぜひ聞いてもらいたいと思っています。
中小・中堅企業のプロ経営者は時代から求められています。それはリーダーになることが求められているということだと思うのです。
3.「人は性善なれど、弱し」
ここでは会社経営に取り組む全ての経営者に知ってもらいたい人間観をご紹介したいと思います。「人は性善なれど、弱し」です。これは一橋大学の名誉教授の伊丹敬之先生の著書から引いた考え方です。ここ最近では、この価値観は、マッキンゼー出身者の方だったり、いろいろな経営者が紹介したりしていますね。
本日の受講者の大半の皆さんはサラリーマン経験があると思うのですが、サラリーマンで、普段から嫌な人ってあんまりいませんよね。本当に悪人と評価されるような人はなかなかいないです。
ですが、上司がワーワー言うから嘘をついちゃったりとか、メンドクサイことがあったら仕事をサボってやらなかったりとか、ちょっと嫌なことがあったら、人間というのはすぐに折れてしまうんです。この「人」を、善悪や好き・嫌いではなく、強い・弱いで捉える人間観というのをぜひ学んでもらいたいです。この価値観を知らずに、一人ひとりのスタッフを善悪や好き・嫌いで捉えていたら、中小企業のオヤジは疲れちゃいますね。
目の前にいる社員がサボる。それはむしろ、当たり前です。経営者と違って、モチベーションが高くないのです。でも、悪い人ではありません。社長のことや仕事・会社が嫌いだからでもありません。もしかすると奥さんが風邪で家庭が忙しくて「社長、すいません!」っていうのを言い出せないだけかもしれない。もっと弱い人だったら「今日はちょっと寒いから気乗りしないな。働くのがイヤだな。」と思って、ちょっと動きがニブイっていうのもあるわけです。
一般的に、人は、心にゆとりがあって平常時であれば、仕事もちゃんとやります。皆さんもそうだと思いますが、心にゆとりがあって平常時であれば、周囲の人に怒鳴ったり、八つ当たりをしたりすることはありません。しかし、ミスが続いて自分に自信がなくなってしまったり、急な仕事が舞い込んで慌てふためいてしまったりすれば、周囲の人に怒鳴ったり、八つ当たりをしたり、性善ではなくなってしまうのです。
この「人は性善なれど、弱し」という価値観で人を見られるかどうかは、中小・中堅企業のプロ経営者をやる上では非常に大事だと思います。ぜひこの価値観を覚えて持ち帰ってもらいたいと思います。
4.仕事はプラグマティック、経営は科学
このように中小・中堅企業のプロ経営者として活躍するために役立つ価値観を他にも紹介したいと思います。次が前提となる仕事観です。
中小・中堅企業のプロ経営者をやる以上、もうプラグマティック(注:実利的・実用的)な考え方しかありません。当たり前ですが、一定の労働時間に対して必ず月給をもらえるサラリーマンではありませんので、仕事をする際には何かしらの付加価値を創造しないと、仕事をしているとは言えないですよね。
大企業だったら、経営資源があって、資金的にも余裕があります。でも、中小・中堅企業の場合は、手元資金はカツカツで、綱渡りの時も多いわけです。そのときに「仕事を頑張ってます。」「いや、頑張ってるじゃないんだよ。しっかりと成果を出してくれないと会社の資金が回らず給与も出せないんだよ。」みたいな話になるわけですね。
そのため、どうしても仕事観については、最終的には会社にお金があるか・ないかに帰結するため、厳しく実際的に考えざるを得ない。本講座は、これから”脱サラ”して独立したいという方も聞いて下さっています。勤務時間という拘束時間に価値があるわけではありません。やはりそのサラリーマン的な価値観を捨てて、しっかりとお客様や会社のために付加価値を創出していって、それに対して対価をもらう。プロ経営者に限らず経営者は厳しい世界です。特にプロ経営者になりたいという方は、仕事に関しては厳しい価値観を持ってもらいたいなと思っています。
次が前提となる経営観です。経営学ですが、教科書でいうと経営学者のフレデリック・テイラーが「科学的経営管理法」を発表したのが20世紀初頭です。「科学的経営管理法」は、経験則から科学へ転換して、その管理をマネージャーの責任とするというものでした。
このフレデリック・テイラーの時代から約100年が経過しましたが、会社経営は科学だということをぜひプロ経営者を目指す皆さんには意識していただきたいと思っています。
もちろん前提条件は会社によって千差万別で違います。会社で取り扱っている商品・サービスも違うし、スタッフも違う。お客様も違います。刻一刻と置かれている状況は変わるので、二度と同じ状況にはならないです。しかし、だいたい同じような状況下で、だいたい同じことを実行すれば、だいたい同じような結果になります。この再現性があるということに関して、経営者はこだわらなきゃいけない。本日皆さんが本講座を受講してくださっているのも、ここで得た知識や気づきを用いて、何かしらの再現性、経営の再現性を期待していただいているのではないかと思っています。
ちょっと余談になりますが、経営学を勉強すると、大学教授がクライアント企業に行ってコンサルティングしました、みたいな話が多いのですが、経営を科学するのが経営コンサルティングである以上、コンサルタントには大学教授の肩書きなど不要ではないかと考えた経営コンサルティング会社があります。今、現在は大学教授じゃなくても、頭の良い“大学教授予備軍”の優秀な若者たちであれば、再現性のある科学的な解決策を提供できるのではないかと考えて、優秀な若者たちを大量に採用して大きくなったファームがマッキンゼーと言われていますね。
話を戻しますが、皆さんに理解していただきたいことは、経営は科学だということです。特に時代は令和ですから、データやテクノロジーとも向き合ってもらいたいと思います。中小・中堅企業だからといって、最先端科学と向き合わなくていいというわけではありませんし、経営学・科学をキャッチアップしないとプロ経営者とは呼べません。
(続く)第2回 中小・中堅企業のプロ経営者の目指すべき人物像
【中小・中堅企業のためのプロ経営者育成講座】
第1回 プロ経営者は中小・中堅企業で活躍する時代へ
第2回 中小・中堅企業のプロ経営者の目指すべき人物像
第3回 中小・中堅企業のプロ経営者とはリーダーである
第4回 中小・中堅企業のプロ経営者の影響力の獲得方法
第5回 中小・中堅企業のプロ経営者のリアル
第6回 中小・中堅企業のプロ経営者への道
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