学習コストを下げる、見慣れたインターフェース
学習コストを下げる、見慣れたインターフェース
投稿日:2023年12月26日 / 更新日:2024年2月3日
株式会社スーツでは、2023年9月27日に経営支援クラウド「Suit UP」(以下「スーツアップ」といいます。)のα版をリリースしました。スーツアップは、中小・中堅企業やスタートアップなど(以下まとめて「中小企業等」といいます。)の労働生産性を高める、全社タスク管理を実現するSaaS(Software as a Serviceの略語、月単位・年単位(サブスクリプション)で活用できるソフトウェアサービス)です。全社タスク管理とは、単なるタスク管理やプロジェクト管理ではなく、個人・部署・経営に至るまで会社全体のタスクを「見える化」し管理する経営管理手法です。本稿では、なぜスーツアップがエクセルやスプレッドシートなどの表計算ソフトに近いインターフェースを採用したのかについて記載したいと考えています。
経営支援クラウド「Suit UP」α版のサービス開始のお知らせ
【まとめ】
- 全社タスク管理でスタッフがタスク設定・更新の入力作業の習慣化をするには、初期段階に、いかに入力作業を繰り返させるかが重要。
- スーツアップでは、スタッフの習慣化のため、誰でもかんたんに使用できるように工夫し開発した。
- スーツアップでは、タスク設定・更新の習慣化を促進するために、エクセルやスプレッドシートなどの表計算ソフトに近いインターフェースを採用。
1.習慣化するには初めが肝心
世の中には、中長期的に継続して行うことができれば、メリットを享受できることがたくさんあります。スキルアップのために勉強をする。健康のために運動をする。逆に、飲酒や喫煙をしないということもあると思います。このように”継続は力なり”であることは頭では分かってはいるけれども、人は、短期的な誘惑に負けてしまって、その日に見たいサッカーの試合の中継があったら勉強をしなくなってしまいますし、ちょっと気温が寒ければ外出せずに運動をしなくなってしまいます。また、昨今は、昔と違って、科学的にも正しいことが検証された、新しい知識や技能を習得するための教科書・情報があふれています。つまり、今の時代、このようなメリットを享受するためには、やり方の良し悪しではなく、継続して続けられるかどうかという習慣化がポイントなのです。
私たちがスーツアップを通じて世の中に広めようとしている全社タスク管理も、継続して行うことができれば、企業価値の向上を実現することができます。会社に所属する個人、部署、プロジェクト、そして、全社などの単位で、チームで本来やらなければならないこと、やったほうがいいことのタスク管理をするわけですから、継続的に全社タスク管理を行うと必ず会社は良くなります。日本のサラリーマンは優秀で、例え上司が部下に対して雑な指示をしても、その部下が上手にタスクを要件定義して、それなりのクオリティで、指示から数日の期限でそのタスクを完了してくれます。しかし、この雑な指示が、本来あるべき会社組織から考えた場合、労働生産性が本当に高いかというと決してそのようなことはありません。やはりしっかりとタスクを特定して、担当者を決めて、いつまでにそのタスクを完了・終了させるのかなど、チームでタスク管理を行う必要があるのです。
このように明らかにメリットがある全社タスク管理ですが、残念ながら運用を続けられない会社であふれています。これは全社タスク管理に限らず、SFA(営業支援システム)の運用なども同様です。これらは多くのスタッフが情報入力し続けることを前提としたマネジメントシステムですが、スタッフの入力作業を習慣化できないのです。もし全社タスク管理を導入したとしても、一部のスタッフしかタスク設定・更新の情報入力を行わなければ、不完全なデータベースとなってしまい、期待した仕組みは機能しません。
では、そもそも習慣化とは何でしょうか。それは同じ状況下で繰り返し行った行動が時間の経過とともに定着して、それこそ無意識でも、行動できるようになることです。習慣化すると意志の力は関係ないと言われていて、習慣となった行動が当たり前に感じ、逆に、行動しなければ違和感を覚えるようになります。習慣化すれば、前述のような、やった方が良い行動習慣をかんたんに継続してできるようになります。また、習慣化した行動そのものを実行していくことでも達成感を得られることから、幸福度や自己肯定感が上昇するとも言われています。
ここで習慣化をテーマにした研究を紹介します。ロンドン大学のPhillippa Lally博士らによる研究によれば、96名を対象に習慣化に必要な日数を調査したところ、習慣化に必要な日数は行動の種類に人によって開きがあり「18日~254日(平均66日)」だったというデータがあります。昼食と一緒に水を1本飲むといった簡単な行動であれば18日、また、毎朝腹筋を50回するといった難しい行動であれば254日と、複雑で負荷の大きな行動ほど習慣化に時間がかかることが分かっています。このように少なくとも習慣化には、2週間半程度の時間が必要になります。
そこで、全社タスク管理においても、スタッフがタスク設定・更新の入力作業の習慣化をするには、初期段階に、いかに入力作業を繰り返させるかが重要になります。そのため、スーツアップでは、別稿でも記載をしましたが、タスク管理の入力項目を簡素化し、入力作業を自動化しています。そして、会社の組織・コミュニケーションをしっかりと定義してチームで協力しながらタスク設定・更新をできるようにしているのです。
また、さらにもう一つ、スーツアップでは、ユーザーの皆さんに習慣化をしてもらうために用意したものがあります。それは見慣れた入力画面、入力インターフェースです。
2.学習コストを下げる
学習コストという言葉をご存じでしょうか?学習コストとは新しい知識や技能を習得するのにかかるコストです。コストとはお金と時間を意味します。経営者の視点では、会社はスタッフの勤務時間に対して報酬を支払っていますので、今後の会社の業務に必要だとはいえ、業務の代わりに、スタッフが新しい知識や技能の習得に時間を費やすということはそれだけコストがかかるということになります。
昨今では、多くの会社が大きな経営課題としてDX(デジタルトランスフォーメーション)を挙げています。DXとは、産業の仕組みや活動をデジタル化することで経営性や競争力を高めることを意味しますが、このDXを推進するうえで、スタッフはシステムを使いこなすことができるようにならなければなりません。これには当たり前ですが、学習コストがかかるのです。
それでは、デジタルを使いこなすための新しい知識や技能が何かというと、これは決してシステムを動かす知識や技能であるプログラミングではなく、誰かエンジニアがプログラミングして既に商品・サービスとなっているシステムを使いこなせるようになるということです。今では多くの会社で一人一台のノート型PCの所持が当たり前になっていて、昔と違ってデスクトップ型PCがある会社も減っています。多くの場合、スタッフ一人ひとりが、そのPCからシステムにアクセスして、それを使いこなすことで会社の競争力を高めることがDXなのです。
会社で用いる業務用システムの事例では、前述のとおり、タスク管理もありますし、SFA(営業支援システム)もあります。それ以外にも、古くからあるシステムであればメール、インターネットブラウザや文書作成ツール、近年登場したシステムであれば経費精算ツール、勤怠管理システム、名刺管理ツール、稟議申請ツール、ビジネスチャットツールやカレンダーツールなどがあります。企業活動においても、ブランディングやマーケティングのためにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用することも一般的になってきました。急激にデジタル化が進んで、これらのシステムを使えるようにならなければ業務に支障をきたすようになってしまったのです。
会社で働くスタッフは、まずはこれらのシステムの使い方を覚えなければなりません。しかも、AI開発の報道を見れば分かるとおりで、システムの世界は日進月歩のスピードで進化していきますから、新しいシステムが日々開発されていきます。スタッフもシステムの使い方に関する知識とスキルを更新し続けなければならないのです。そこでシステム開発するエンジニアが重視し始めたのが「UI/UX」です。UIはユーザーインターフェースの略称でユーザーとシステムとの接点のことをいい、UXはユーザーエクスペリエンスの略称でユーザーのそのシステムを通じた体験のことをいいます。全ての人が最先端な技術を学習できるわけではありませんから、ユーザーにとって使いやすく直観的な理解ができる「UI/UX」のあるシステムが求められるようになったのです。
会社のそれこそインフラシステムとなるような、スタッフ全員が使うことを前提としたシステムならば、優れた「UI/UX」で、誰しもがかんたんに使えるようにしなければなりません。これには、システムの継続使用だけでなく、初期段階においては、システムの使用方法をかんたんに習得できる必要があります。システムを使いこなすために、多額の学習コストがかかるのでは困ってしまうのです。
本来、システムは問題解決のための道具であって手段です。その道具・手段の使用方法の習得のために、多額の学習コストがかかるのでは本末転倒と言わざるを得ません。また、前述のとおり、スタッフの習慣化という観点では、初期段階が勝負なのです。初期段階でシステム使用が続かなければ習慣化することができず、そのマネジメントシステムの運用は頓挫することになってしまいます。
そのため、全社タスク管理を実現するために開発されたスーツアップでは、スタッフの習慣化を視野に入れて、学習コストをいかに下げるかに頭を使って開発を行ったのです。
3.スーツアップは見慣れたインターフェース
上記の資料は、2023年12月12日に株式上場をしたアウトルックコンサルティング株式会社の2023年12月付け「事業計画及び成長可能性に関する説明資料」の21頁のスライドです。同社は経営管理システムSactonaの開発・販売をしていて、当該システムの特徴はエクセル機能をそのまま活用できるようにしている点です。
このスライドによれば、「仕事で最も利用頻度の高い表計算ソフト」では、エクセルが84.5%、スプレッドシートが3%となっています。また、「最も使いやすいと感じる表計算ソフト」では、エクセルが81.7%、スプレッドシートが3.3%となっています。つまりは、表計算ソフトにおいて、エクセルが8割を超えるシェアを占めている状態なのです。
私は、このエクセルに代表される表計算ソフトは発明だと思っていて、現在では表計算ソフトは、ちょっとしたタスク・プロジェクト管理から財務分析まで様々なビジネスシーンで活用されています。タスク管理のために、エクセルやスプレッドシートを用いて、ガントチャートやWBS(Work breakdown structure)を作ったことがある方もいらっしゃるかもしれません。
スーツアップでは、スタッフの学習コストを下げ、タスク設定・更新の習慣化を促進するために、このエクセルやスプレッドシートなどの表計算ソフトに近いインターフェースを採用しています。
システムは、あくまで道具であって、それ自体が目的になってはいけません。私たちは、このシステム利用が当たり前の世の中がさらに成熟化するにつれて、人間工学の見地から、人に「やさしいテクノロジー」に移行していくものと考えています。
私たちは、中小企業等に全社タスク管理を導入して、企業価値向上をしてもらいたいと考えています。そのために考えた結果が、スーツアップに、みんなが見慣れたインタフェースである表計算ソフトのような入力画面を採用するということでした。
他にも、全社タスク管理のために採用することができるタスク・プロジェクト管理ツールは「Asana」「Trello」「backlog」「Jira」「monday.com」や「notion」など沢山あります。これらは機能も多機能で、ユーザーが会社に合わせて自由に設定ができる項目も多く、全て素晴らしいツールだと思います。しかしながら、中小企業等の経営に長らく関与してきた私の感覚からすれば、機能も”多過ぎる”し、自由に設定が”でき過ぎる”のです。これでは、スタッフがこのシステムを使いこなすための知識や技能を習得するための学習コストが高くなってしまいます。
全社タスク管理では、中長期的に、スタッフの皆さんに運用し続けてもらうことが大事ですから、そのためにはタスク設定・更新の習慣化の獲得、また、その習慣化の獲得のためには学習コストを下げて誰でもかんたんに使用できるようにする必要があると考えています。このような、人に寄り添った「やさしいテクノロジー」の設計思想があれば、スーツアップを通じて、多くの中小企業等に全社タスク管理が導入・運用できるものと確信しています。
【関連ブログ】
1.プロジェクト管理やタスク管理で本当に大事なこと ~ なぜスーツアップではこの機能が採用されたのか ~
2.優秀なビジネスパーソンの定義は「凡事徹底」ができる人に変わった
※ 「経営支援クラウド」「Suit UP」及び「全社タスク管理」は株式会社スーツの登録商標です。
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、東証スタンダード上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社の前身となる株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より、総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。2019年6月より、国土交通省PPPサポーター。
2020年10月に大手YouTuberプロダクションの株式会社VAZの代表取締役社長に就任。月次黒字化を実現し、2022年1月に上場会社の子会社化を実現。
2022年12月に、株式会社スーツを新設分割し、当社設立と同時に代表取締役社長CEOに就任。