中小・中堅企業のプロ経営者とはリーダーである

本稿は、2023年1月26日に株式会社スーツにおいて開催された「中小・中堅企業のためのプロ経営者育成講座」(講師:株式会社スーツ 代表取締役社長CEO 小松 裕介)をダイジェスト版に加工した記事の第3回です。

第2回 中小・中堅企業のプロ経営者の目指すべき人物像

【まとめ】

  • ケイパビリティ(実行力) = マネジメントシステム × スタッフの活動量
  • マネジメントシステムを作って、しっかりとスタッフにその仕組みを遵守・運用させる。
  • 経営者は適切なマネジメントシステムを作って、そこで働くスタッフが快適に働けるような仕組みを作らないといけない。
  • 会社経営の現実では、会社を良くするのはリーダーシップと企業文化。
  • 中小・中堅企業のプロ経営者とはリーダーである。
  • どれだけ中長期的に、普遍的に正しいことを言って、夢に共感をしてもらって人を動かすか。
目次

中小・中堅企業のプロ経営者とはリーダーである

8.ケイパビリティの獲得

講師:株式会社スーツ 代表取締役社長CEO 小松 裕介(以下同じ):

ここから先は、私が実際にこの20年で経験してきた中小・中堅企業の企業価値向上についてお話をしたいと思います。3つのスライドを用意しております。

1つ目ですが、ケイパビリティ(実行力) = マネジメントシステム × スタッフの活動量です。

中小・中堅企業は、大企業と違って、ケイパビリティが本当にありません。もうちょっと丁寧に説明すると、大企業でいうケイパビリティとは、競争戦略としてのケイパビリティ。それに対して、中小・中堅企業でいうケイパビリティとは、普通のことや当たり前のことができるための実行力・組織力です。例えば中小・中堅企業に大企業の保有していないような技術があったとしても、また、優れた差別化戦略などの経営戦略が立案できたとしても、組織的な実行力がなければ、企業のバリューアップに活用することができず、そもそも何も始まりません。

この極めて低いレベルの論点。当たり前のことを行えるかどうかというケイパビリティが論点なのです。今回、私は計算式を作ったのですが、先ほどの「ケイパビリティ= マネジメントシステム × スタッフの活動量」です。

大企業からキャリアを始めた人からすると信じられないかもしれませんが、中小企業には本当にマネジメントシステムがない。組織規程、業務分掌規程や職務権限規程などの組織の基本規程と言われる規程集もなければ、稟議制度もない。社内コミュニケーションにしても、部署や役職者レベルの定例会議もなければ、各種報告書もない。月次決算や管理会計、KPI設定もない。私の知っている酷い事例だと売上が10億円超えて、50人ぐらい社員がいるのに組織図がないという会社もありました。それでも中小・中堅企業は日々の業務が回っているのです。いや、大企業と比較すると、ちゃんと回っていないですね。だから労働生産性が低くなってしまうのだと思います。

先ほどお話したとおり、大企業だと、お客様からクレームがあったら組織としてしっかりと情報共有されます。これはマネジメントシステムがしっかりしているからです。組織として仕組みやルールがないと、バケツに穴が開いているようなもので、どんなに頑張っても水が溜まらずこぼれ落ちてしまいます。

この当たり前の組織としての実行力を獲得するために、中小・中堅企業のプロ経営者が何をやるか。それはマネジメントシステムを作って、しっかりとスタッフにその仕組みを遵守・運用させる、ということになります。その時に必要になるのが、先ほど話をした活動量です。量が質に転化する。マネジメントシステムもスタッフがたくさん活用すれば、使い慣れた道具のように手になじんできます。

マネジメントシステムをしっかりと構築して、それを熱量をもって活動量を増やしていかなければならない。これをしっかりやれば中小・中堅企業のレベルはぐっと上がって、売上・利益が増えます。

もう一つ理解していただきたいのが、時々、営業力の強い会社とかですと、スタッフの活動量だけで事業が回っているように見えてしまう会社があるのです。しかし、それは実際のところマネジメントシステムが構築されている・回っている、という状態とは異なっており、中長期的にはどこかで息切れをしてしまいます。

本日の受講者にはスタートアップ企業の社長もいらっしゃいますが、3年間ぐらいは、スタッフも社長と同様の熱量で仕事をこなすことも不可能ではありませんが、もっと5年間とか10年間とかになると次第に難しくなってきます。長い間働いていると、家族の方から「そろそろ仕事は落ち着かないの?」と言われたり、各種ライフイベント、例えば子どもの受験とか親の介護とかも発生し、仕事だけに熱中することも難しくなったりすることもあるでしょう。活動量だけで事業を回そうとすると、色々なところに無理が出てきます。ですので、そうなる前に、経営者は適切なマネジメントシステムを作って、そこで働くスタッフが快適に働けるような仕組みを作らないといけない。

活動量だけでゴリ押しするのは無理ですし、やめるべきです。しかし、マネジメントシステムさえ作れば、会社の組織力を獲得できるかといえば、そういうわけでもありません。マネジメントシステムと活動量、この二つのバランスが重要です。マネジメントシステムは企業活動を支え、アウトプットを一定のレベルに担保するもの、そして組織が実際に組織力を獲得するのには活動量が必要。この二つのバランスをちゃんととらないと、会社は良くならない、ということをぜひ理解してもらいたいです。

9.全ての科目で70点を目指す

私は株式会社スーツを設立してから沢山の会社のサポートをしてきたのですが、クライアント企業様に対しては、経営戦略、マーケティング・営業、オペレーションや管理部門などの様々な企業が必要とする項目で「まずバランス良く70点を取りなさい」という指導をしています。要領の悪い社長は、マネジメントシステムの構築に際し、1つの項目で100点を取ろうとしてしまいます。

レーダーチャートを見ていただきたいのですが、青が中小企業、灰色が大企業、赤が当社の経営支援する企業です。中小企業は、各項目で未整備の状態のため、これでは全体として落第点になってしまいます。大企業だと、多くの場合は管理部門やオペレーションは強く、テクノロジーは弱いですが、全体としてはもちろん合格点です。大体の経営者は、スタートアップを設立したり、中小・中堅企業の経営者に就いたりすると、元々の自分の専門領域だけに着目してしまうため、そこを100点にしたがります。

学生の時のテストをご想像いただきたいのですが、20点から70点にすることももちろん大変ですが、一方で、90点を100点にする、というのも非常に難しいことです。この10点は、下手すると、20点から70点にするのと同じぐらい努力が必要になります。点数で見れば、同じ努力と時間で、片一方では50点上がるのに、もう片方では10点しか上がりません。

トータルで見れば、50点上げた方が良いはずなのに、多くの社長は、自分の過去のキャリアや業務経験に囚われてしまって、その項目で100点をとることに固執してしまうという方が多いです。これは非常に効率が悪いのでやめるべきだと思います。

とにかく最初の目標は、全ての項目で70点という合格点を取りにいくことに注力すべきです。ご理解いただけると思うのですが、会社全体の業務効率で考えたとき、例えば商品やサービスが悪いにもかかわらずマーケティングを一生懸命やるのは非効率です。また、営業を強化しているのに、サービス・オペレーションを一切作っていないならば、トラブルの発生は予見できそうですよね。

そのため、とにかく1回、会社経営をする上で必要となる項目全てについて、しっかりと及第点に持っていくことが本当に大事です。それでなければアウトプットの効率が非常に落ちてしまいます。そのため、中小・中堅企業のプロ経営者になった場合は、素早く効率的に全項目でバランス良く70点を目指していただきたいと思います。中小企業なので伸び代は大きく、合格点である70点まで持っていくことは、そこまで困難ではありません。

10.過小評価をしてはならない活動量

先ほどの話と重複するところもありますが、バリューアップの成功のポイントで、重要なのは活動量です。大企業で経営企画室とかM&A担当とかスマートな部署にいた人だと、どうしても戦略やテクノロジー偏重で活動量を過小評価しがちなのですが、スタッフの活動量は馬鹿にはできません。

世間で良い会社と呼ばれている会社の多くは活動量が豊富です。キーエンス、リクルート、光通信、M&Aセンター、野村證券など例を挙げればきりがないと思います。昔ですが、国内営業が強くて有名な上場会社の役員と話をしていたら、夜3時から会議があると話をしてビックリしたことがあります。世間からすれば随分、常識外れなのですが、これが社内でまかり通る。こういった時間帯に会議をやる。そして、会議に参加するために人が集まる。そういった会社だから莫大な売上や利益が創出できるのですよね。

私が尊敬する経営者の一人に先日亡くなった京セラの稲盛和夫名誉会長がいますが、京セラについて書かれた本を読むと、創業期はとにかく仕事を受けて、工場に泊まり込んで、朝から晩まで「みんな頑張ろう!」で大きくなった会社だと書いてあります。これがまさにスタッフの活動量だと思うのです。

このスタッフの豊富な活動量を実現するにはどうすればいいか。やはり経営者のリーダーシップが問われます。経営戦略を語るだけ、マネジメントシステムを作るだけでは人は動きません。どうやって人を動かして、スタッフの活動量を上げるか。そこを真剣に考えてもらいたいです。

スライドの右側に「スタッフの活動量はリーダーシップと企業文化で支える」と書いています。座学で経営の勉強をするとどうしても頭で考えがちなのですが、会社経営の現実では、会社を良くするのはこのリーダーシップと企業文化です。少なくともMBAで学んだ知識だけでは会社は大きくなりません。やはり「人が人を動かす」のです。この部分をちゃんと理解して、一人ひとりのスタッフを口説き落として、豊富な活動量の会社を作って、そして、合理的な経営をする。この「情理」のバランスのとれた良い会社が、優れた会社なのだと思います。

11.マネジメントとリーダーシップ

今までリーダーシップやスタッフの活動量の話ばかりをしてまいりましたが、経営者ならば経営の勉強はもちろんすべきです。今回の受講者の中にも、いわゆる「タタキ上げ」の経営者の方もいらっしゃると思うのですが、そういった方たちにもちゃんと経営の勉強をしてもらいたいと思います。

特に、もしプロ経営者として生きていこうとお考えの方には、最低限の素養として、マネジメントスキルを身に着けていただきたいと思います。ここでいうマネジメントスキルとは、MBAのような教科書に載っている経営に関する知識です。具体的には経営戦略、マーケティング、オペレーション、組織行動、ファイナンスとかですね。

先ほども申し上げましたが、経営学には約100年以上の歴史があります。ですので、この100年の歴史を学ぶ、ぐらいのモチベーションを持っていただきたいと思います。どんなに勉強が苦手な人であっても、皆さんが目指しているのは中小・中堅企業のプロ経営者なのです。

プロフェショナルを名乗るからには、オープンになっている情報には全てアクセスするぐらいの気概で学んでいただきたいと思います。特にマネジメントスキルはコモディティ化が進んでいますので、誰でも情報やテキストを入手することができるようになっています。そのため、プロ経営者になって経営の領域を仕事にして生きていこうとお考えの方には、ぜひ勉強をしていただきたいと思っています。

次に、繰り返しになりますが、本講座が普通の経営者向けセミナーと違うところ、それは、リーダーシップについて重きを置いているところです。「中小・中堅企業のプロ経営者とは何ですか?」と聞かれたら、やはり「リーダー」なのです。リーダーシップがない社長のもとでは、会社は良くなりません。

私は20年にわたり中小・中堅企業のバリューアップをやっていますが、元々の私の売りはマネジメントに関する知識のある若手経営者であることでした。地方の会社の企業再生を手掛けていましたので、グロービスのMBA本とかフレームワークに基づいて話をするだけで、幹部社員が「おぉ」と評価してくれる。しかし、途中から、経営の効率化や合理化だけでは、なかなか売上が増えないことに気が付きました。大企業の経営改革をしているわけではありませんから、数年にもわたって経費削減やオペレーション改善する論点もないのです。

そして何より私の案件はほぼ全て経営資源がない。経営資源がないから、今いる人と向き合って、「頼むから一緒に営業を回ってくれ」とか「困っているから、ちょっと一緒にやろうよ。」とか、場合によって、投資家に会いに行って「出資してくれないと困るんです。どうにかご協力してください。」。そういうお願いをひたすらするのが、私の約20年のうちの大半です。

私は31歳で上場会社の代表取締役社長を辞めて、今の株式会社スーツを設立してからプロ経営者と名乗っていますが、足をバタバタしている白鳥とほとんど変わりません。地べたをはいつくばってクライアント企業様のためにお願いをする毎日です。それが私の仕事です。頭を下げる先は、取引先の場合もありますし、お客様の場合もあります。それこそ従業員の場合もあります。

なぜなら、私は会社を良くしたい、みんなのためにどうにかしたいと思っているからです。それならば頭ぐらい下げる。残念ながら、会社の経営者としてできることは、それぐらいしかない。これができる人、これをやる覚悟がある人がプロ経営者になれる人だと思います。これが私の考える、綺麗ごとのない、生々しいリーダーシップです。

先ほど、私は「お願い」という言葉を使いました。創業オーナーの経営者とはちょっと違います。プロ経営者の場合は、基本的に株主は自分ではない誰か。オーナーがいたりファンドがいたりするわけです。そのため、100%株式を保有している創業オーナーではありませんから、自分がオールマイティで好き勝手やっていいわけではないのです。ですので当然、創業社長の立ち振る舞いや発言と求められるものが異なります。リーダーシップの発揮の仕方も違います。

では、そこのポイントは何かというと、社内のスタッフ対して「俺について来い!」という話は通じないのです。みんな、「あなたはオーナーじゃないですよね?」、「いつかこの会社からいなくなってしまうんですよね?」とどこか冷めた目で見ています。そこで大事なのは、どれだけ中長期的に、普遍的に正しいことを言って、夢に共感をしてもらって人を動かすか、そこが勝負どころになります。

このスライドには「リーダーとは何ですか?」とあって、それは「フォロワーがいること」と定義されています。フォロワーは、株主とか社長とか地位に基づく影響力に従っているのではなく、リーダーに共感しているから付き従っているのです。これがリーダーとフォロワーの関係です。

プロ経営者は株式を保有している創業オーナー社長とは違いますので、そういった地位に紐づく影響力・パワーで動かすのではなくて、夢とか共感という力で「一緒にやろうよ」とリードする。これをできるのがプロです。そのため、私がいろいろな会社でどのような仕事をしているかというと、夢を描いて「みんなでこの会社を良くしよう」という話を日々しています。

本日の受講者の方の中には創業オーナー社長の方も何名かいらっしゃいます。その方たちは、自分に株式や社長の地位がなくても、人が付き従ってくれるのか。夢の力や共感の力で人を動かすことができるのか。そこを考えていただければと思います。

「オーナーが言っているからしょうがない」、「社長が言っているからしょうがないよね」というのはリーダーとしては適切ではありません。本来は、立場や地位は関係なく、対等な一人の人間同士と考えて「あの人の言ってることは正しいよね。だから、やった方がいいよね」と思わせられることができるか。これが経営者の勝負だと思ってください。

最後に「リーダーは愛され畏れられる存在である。」。今日はこの言葉を持ち帰っていただければと思います。

社長になったら、この距離感がうまく取れない方が沢山いらっしゃいます。社長になった途端、部下から嫌われたくないと思って、部下の「下」に入ってしまう人もいます。逆に、社長になった途端、部下に対して横柄な態度で威張り散らす人もいます。

リーダーシップの考え方で大事ななことはフラットな関係なのです。フォロワーから愛されなければならないし、同時に畏れられなければならない。畏れられるとありますが、「恐怖」の「怖れる」ではなく、「畏怖」の「畏れる」です。リーダーに正しいことを言われるのは、正しいだけに逃げ場もなくなりますし、怖いことです。正論を言われるのは辛い時もあります。リーダーは、フォロワーのことを真剣に考えたら、成長してもらわなければなりません。ですから、正しいことを言わざるを得ない。そこの正論の出発点には、その人に対する愛情がなければならない。愛され畏れられる。それがリーダーです。この距離感、バランス感が大事だと考えます。

ぜひともプロ経営者を目指す人たちには、このリーダーシップを学んでいただきたいです。今の時代はリーダーシップも、その人の持つ先天的な特性とは解されておらず、後天的にも習得できるスキルであるとされています。リーダーシップも科学されていますので、マネジメントと同様に再現性があります。ですので、リーダーシップも座学で学んでいただき、会社経営の実践で身につけて、いろいろな会社で再現性をもって、リーダーシップを発揮していただきたいと思います。

(続く)第4回 中小・中堅企業のプロ経営者の影響力の獲得方法

 

【中小・中堅企業のためのプロ経営者育成講座】
第1回 プロ経営者は中小・中堅企業で活躍する時代へ
第2回 中小・中堅企業のプロ経営者の目指すべき人物像
第3回 中小・中堅企業のプロ経営者とはリーダーである
第4回 中小・中堅企業のプロ経営者の影響力の獲得方法
第5回 中小・中堅企業のプロ経営者のリアル
第6回 中小・中堅企業のプロ経営者への道


※ 「経営支援クラウド」「Suit UP」及び「全社タスク管理」は株式会社スーツの登録商標です。

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この記事を書いた人

小松裕介のアバター 小松裕介 代表取締役社長CEO

株式会社スーツ 代表取締役社長CEO 小松 裕介

2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、東証スタンダード上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社の前身となる株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より、総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。2019年6月より、国土交通省PPPサポーター。
2020年10月に大手YouTuberプロダクションの株式会社VAZの代表取締役社長に就任。月次黒字化を実現し、2022年1月に上場会社の子会社化を実現。
2022年12月に、株式会社スーツを新設分割し、当社設立と同時に代表取締役社長CEOに就任。

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