全社タスク管理の方法と導入ノウハウについて
本稿は、2023年2月7日に株式会社スーツにおいて開催された「全社タスク管理導入講座(初級編)」(講師:株式会社スーツ 代表取締役社長CEO 小松 裕介)をダイジェスト版に加工した記事の第3回(最終回)です。
第2回 全社タスク管理から始める経営改革
【まとめ】
- 具体的な全社タスク管理の導入の仕方は、組織とコミュニケーションの定義をしたうえで、全社的にタスク管理を行うこと。いきなりタスク管理を設定しても運用できない。
- タスク管理はやり過ぎない。入力項目を減らして、「ラクして管理する」を心がける。
- 全社タスク管理を導入すれば、必ず良い会社になる。
全社タスク管理の方法と導入ノウハウについて
6.具体的な全社タスク管理の導入の仕方
私は全社タスク管理の導入だけで、いろいろな会社を黒字にしてきています。その考え方やノウハウをシェアしたいと思って本講座を開いております。ただ、私が言っているだけですと、一人の経験則でしかありませんので、ここで別のプレイヤーのコメントを紹介したいと思います。投資ファンドのカーライルも全く同じことを言っています。
「100日プランとは何か?」と記載されたスライドのうち、赤文字にしているところが、私の言う全社タスク管理です。ちょっと細かいので読み上げます。組織ごとの役割の定義、権限規程等の整備、社内コミュニケーションの再定義、経営会議等、会議体の整備、具体的なアクションプランの策定、見える化です。これが投資ファンドのカーライルが言う100日プランの一部です。ミッション・ビジョン、経営戦略などにも言及されていますが、その前提となる組織の整備、マネジメントシステムの整備まで言及されていますね。
何をすればいいのかをもっと具体的にお示ししたいと思います。これは私が実際にやってきたことのサンプルです。3つシートがあります。これは皆さんもよく見る組織図です。先ほどから述べさせていただいているとおりで、ちゃんと組織を定義しましょう、というところから始まります。本講座を受講している皆さんの会社にも組織図はありますよね?本部がないのに本部長がいるとか、部下がいないのに課長と名乗っているとかはおかしいです。「タテ・ヨコ」と言われますが、階層の定義と部署の定義をしなければなりません。部長の階層、課長の階層など、役職名に合わせて同じ権限を定義しなければなりません。本部長と部長が横並びになるのはおかしいですからね。また、どの部署がどの仕事を行うのかも定義しなければなりません。ビジネスモデルから考えて、抜け漏れなく仕事の担当部署を決めればよいのです。この定義があるだけで、社員はとても働きやすくなります。中小・中堅企業だと、この仕事はAさんの仕事と決めがちですが、そうなるとAさんの代えが効かなくなってしまいます。組織単位で人材採用、配置転換や社員教育をしなければなりません。組織ごとに担当する仕事が決まっていれば、担当の決まっていない宙ぶらりんの仕事がなくなります。その仕事が、所属する部署や自分が担当するか明言されていなければ、それは放置されてしまってもしょうがないですよね。こういうのをなくすためにも、組織の定義をしなければなりません。
次にコミュニケーションのデザインです。組織の定義をしただけでは、必ずしも組織が活発に機能するわけではありません。そのためにはコミュニケーションを定義する必要があります。ここでは代表例として会議体を取り上げたいと思います。本講座の受講者の皆様は部署会議などの定例会議は設けていますか?よくあるのは月曜日に営業会議とか事業部の会議がある、とかでしょうか。次に役職者会議です。課長以上の会議とか、部長以上の会議とか、役員会とかです。さらに経営会議、取締役会などもありますね。会議体の一覧を作成したら、ちゃんと議事録のフォーマット、会議で使用する資料の雛型も用意した方が効率的です。
さて、このように組織とコミュニケーションの定義をしたうえで、全社的にタスク管理を導入してください。いきなりタスク管理を設定しても回りません。このサンプルでは経営として必要な仕事を書き出してあって、それ以外に部署単位で行うべき仕事が書き出されています。部署単位であれば、それぞれ5名から10名以内ですので、この人数ならば、タスク管理が必要ですし、ほど良い人数なのではないかと思います。
タスク管理についてもやり方があります。それは細かく管理しないことです。それこそ期限もほどほどで構いません。ここをガリガリやると嫌気がして定着しません。例えばですが、仕事の始期を決めるのはやり過ぎだと思います。想像してみてください。「Aさん、この仕事を来週水曜日から金曜日にやってください」。これが現実的だと思いますか?「来週金曜日までにこの仕事をお願いします」と期限だけで十分です。ガントチャートも私は不要だと思います。日々の更新作業を考えると、ガントチャートを作成することそのものが、それこそ仕事になってしまいます。
あと、タスクの期限を超過した場合ですが、こちらも厳しくなり過ぎない運用を心がけましょう。もちろんお客様がいて納期があって絶対にやらなければならない仕事は別です。ここに記載しているような「重要度が高いが、緊急性が低い仕事」、言い換えると「中長期的な観点では重要性が高い仕事」ですね。この仕事は短期的な目線で期限を守ることよりも、書き出してあって多少期限が遅れたとしても確実に実行されることの方が大事な仕事です。ちょっと期限を超えてしまったからといって、ワーワー言い過ぎるとみんな嫌になってしまいます。全社タスク管理ですが、徐々に導入していくのが腕の見せ所だと思っています。やり過ぎない、ガリガリやらないがポイントです。最初から細かい設定を沢山できる会社ならば、既にPDCAは回っているでしょう。とにかく入力項目を減らして、「ラクして管理する」を心がけましょう。定例会議で一緒に更新作業を行うのもポイントです。
ここからは駆け足でいきたいと思います。全社タスク管理の全体像を示しています。「組織は戦略に従う」という格言がありまして、本日は今まで散々、組織の定義の話をしてまいりましたが、その前に経営戦略がまずあるべきです。経営戦略がない会社はまず経営戦略を立案しましょう。ただ、先ほど述べましたとおり、ビジネスモデルが既に明確になっている中小・中堅企業が改めて時間をかけて経営戦略をアップデートする必要はないと思っています。
ここからは各論です。組織の定義の仕方として、具体的には、組織規程、業務分掌規程、職務権限規程というのを定めて、組織の定義をしてまいります。インターネットでも規程集の雛型はあふれているのではないかと思います。先ほど申し上げた、どの部署が何の仕事をやるのか、これが業務分掌規程です。どの役職がどの権限を持っているのか、これが職務権限規程ですね。コミュニケーションの定義ですが、先ほどは会議体について説明をしましたが、他にもチャットツールカレンダーツールなどもあります。予め組織のコミュニケーションをデザインする。これだけで会社の雰囲気が良くなります。
様々な会社で起きていると思いますが、悪気はないにしても、くれぐれも、なぜか部署スタッフのうち「なぜか何人かには情報共有されていない」というのを無くしてください。当たり前ですが、自分にだけ情報共有されていなかったら、げんなりします。一緒に働く仲間だからこそ、情報が均一に行くように配慮する。これは経営者が意識しなければならないことだと思います。コミュニケーションのデザインも、多くの社長は興味を示さないですね。人数の少ない会社ならば、それこそ経営者に甘えがあって「小さい会社なのだから、全員に情報共有されているだろう」と考えがちです。ちゃんとルール化しないと情報は流れないものです。
最後にタスクの設定です。ぜひ本講座を受講した皆さんの会社で、やっていない会社があれば取り組んでみてください。必ず会社はよくなると思います。但し、先ほど言ったとおりで、ガリガリやるのはよくありません。徐々に全社タスク管理を導入していってください。また、細か過ぎるタスク管理もやめましょう。これも回らなくなってしまうだけです。
最後に告知コーナーです。もし、現時点で全社タスク管理を導入するとなると、マイクロソフトのエクセルやGoogleのスプレッドシートなどの表計算ソフトを活用することになると思います。私も今まではこれらの表計算ソフトを活用して全社タスク管理をしてきました。ちなみに、違うツールですと、大会社だとAsanaであったり、スタートアップ企業だとNotionを活用したりしてタスク管理をしているという会社があります。ただ私は、やはり表計算ソフトは使い勝手がよくないと思っています。当たり前ではありますが、タスク管理のためだけに作られたソフトではないからです。タスクの期限が迫ったとしてもリマインドもしてくれませんし、カレンダーツールやチャットツールと連携もしてくれません。そのため、今、株式会社スーツでは、経営支援クラウド「Suit UP」(スーツアップ)という名称で、全社タスク管理ツールの開発をしています。今年の秋口から冬にかけてサービスインできるように鋭意開発をしておりますので、その際には皆様にもご案内をさせていただきたく考えております。
50分ほどご説明をさせていただきましたが、本日、私がお話した全社タスク管理を導入すれば、必ず良い会社になると思います。少なくとも私が20年近く実践してきたことになりますので、バリューアップの再現性があることについてはお約束いたします。当たり前のことを当たり前にするだけで会社はよくなります。ぜひとも明日から全社タスク管理の導入にチャレンジしていただければと思います。
Q1:私の会社は、社長の私以外に正社員が2名いて、あとは業務委託が5~7名の全員合わせて10名以下の組織です。ご指摘のような、組織がまわっていない課題感がありました。小さい会社のため、組織図を作って、業務分掌規程や職務権限規程を作成するには大袈裟だと思いますが、本日の話を小さい会社に当てはめる場合にはどうすればいいでしょうか?
<回答>
ご質問ありがとうございます。おっしゃるとおりで、10人以下の組織だったら規程はなくてもいいかもしれません。とはいえ、全社タスク管理のコンセプトは小さい組織でも変わりません。全員が担当するタスクを「見える化」して管理することが重要だと思います。組織の定義、コミュニケーションの定義については、組織のサイズに応じて減らすことも検討できると思います。
ただ、違う目線もあると思います。それは社長がこれから将来、今の会社をどれぐらいの組織にしたいのか、という観点です。これから社員を20名、30名、50名と増やしたいと考えていらっしゃるならば、予めしっかりと組織の定義、コミュニケーションの定義をして、全社タスク管理をしていくのも方法だと思います。社内で組織やコミュニケーションのルールが明確になっているならば、新しく入ってきた人には「うちの会社は、こういったルールで、こういう運用をしている」と説明すればいいだけです。
ですので、そこは経営者が会社の組織をどうしたいのかによると思います。もちろん私は必ずしも人数の多い会社、大きい会社が良い会社だとも思っていませんので、そこは働き方とか、自分のやりたい経営の仕方に応じた組織設計とか管理の仕方を探してもらいたいと思います。
Q2: 全社タスク管理を導入したら、どのように進捗確認を行えばいいのでしょうか?
<回答>
私のオススメですが、全社タスク管理の進捗確認は定例会議で確認するのがよいと考えています。
私が企業再生した会社の事例ですが、部長以上が参加する経営会議を毎週月曜日の午前中に1時間半ぐらいとって開催していました。この会議で、社長である私が経営レイヤーのタスクの進捗報告をして、各部長には各部署のタスクの進捗報告をしてもらいました。ただ単にタスクの終了報告だけでなく、報告の過程で新たな問題や改善点があるようならば、新たなタスク設定もその場で一緒にしていました。
また、別途、各部署会議でも、部員と一緒に週に1度、部ごとのタスク管理をしました。こちらも経営会議と同様で、それぞれの部員から進捗報告を受けるのと同時に、新たな論点が発生したら、その場でタスク設定を行いました。その場でスタッフと一緒になって、タスク設定をするのが、なんだかんだ言っても一番効率がいいですね。
スタッフそれぞれの自主性や役割分担に任せて、しっかりとタスクが期限どおり消化されていって、管理職がそれをチェックしながら新たにタスクを追加していく、となることが望ましいのですが、案外そうはいかないんですよね。最近は、それこそオンライン会議ばかりで同じ場所に上司と部下がいないこともあってか、部下と一緒に作業をするということをやらない会社が多いのですが、私は一緒に作業をすると、効率は悪くとも、少なくとも確実に状況の確認ができますし、情報共有もその場でできますのでオススメしています。特に組織力がまだない会社は、これぐらいやらないと上手くいきません。
全社タスク管理が定着しない原因には、管理職スタッフがちゃんと管理をしないということも挙げられるかもしれません。全社タスク管理は管理職スタッフがしっかりしないといけませんが、管理職スタッフが部下に指示を出してタスク入力させて、タスクが終了した場合、その部下に勝手にそのタスクを削除させていたのでは統制が効いていませんよね。組織論で考えれば、上司がタスク設定して、部下が終わりましたと言ったら、その上司がそのタスクを削除しなければおかしいです。部下がタスク設定して、部下がタスク管理をして削除しているならば、それこそ悪いスタッフだったら、バレないようにさらっと自分のタスクの期限を後ろ倒ししたり削除したりしますよね。タスク管理ぐらい、ちゃんと上司がやりましょう。ぜひ全社タスク管理を通じて、上司・部下のコミュニケーションを増やして、風通しの良い会社にしてもらえればと思います。
本講座は以上になりますので、また何かご質問あれば個別にご連絡いただければと思います。皆さまのご活躍を祈念しておりますので、頑張ってください。本日はありがとうございました。
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【全社タスク管理導入講座(初級編)】
第1回 全社タスク管理とは確実に会社を良くする方法
第2回 全社タスク管理から始める経営改革
第3回 全社タスク管理の方法と導入ノウハウについて