Suit UP

ぼくらのスモールビジネス「大手YouTuberプロダクションVAZの企業再生。ビジネスモデル再生から黒字化まで」前編

 

 

本稿は、小さく始めて大きく稼ぎ、人生を謳歌するスモールビジネス経営者の知られざる生き様に迫る番組「ぼくらのスモールビジネス」に、第13回ゲストとして当社代表の小松が出演した回(【13-3】大手YouTuberプロダクションVAZの企業再生。ビジネスモデル再生から黒字化まで)について、各人の発言の主旨を変えずに、読みやすいようにテキスト用に再編集したものです。

【13-3】大手YouTuberプロダクションVAZの企業再生。ビジネスモデル再生から黒字化まで
Spotifyの方は  spoti.fi/3XQYLo2
Podcastの方は  apple.co/3UcwN4Y
YouTubeの方は youtu.be/RgxNo0Q0qS4

 

<パーソナリティ>
アンティークコインギャラリア代表 渡辺 孝祐
WEB/デジタル領域のプロジェクトマネージャー 齋藤 実帆

<ゲスト>
株式会社スーツ 代表取締役社長CEO 小松 裕介

 

「プロ経営者が語る、利益を増やす凡事徹底」 前編はこちら
「プロ経営者が語る、利益を増やす凡事徹底」 後編はこちら
「伊豆シャボテン公園を再生!企業再生のプロが出来るまで」 前編はこちら
「伊豆シャボテン公園を再生!企業再生のプロが出来るまで」 後編はこちら

 

1.YouTuber事務所「VAZ」の企業再生

 

パーソナリティ 渡辺 孝祐(以下「孝祐」といいます。):ゲストの小松さんの第3回目です。前回は、伊豆シャボテン公園の企業再生の話を聞いてきましたが、今回はVAZですね。 YouTuberプロダクションになります。

 

第13回ゲスト 小松 裕介(以下「小松」といいます。):はい、そうですね。会社自体は2015年に、学生起業家の森社長が創業しました。私は、たまたま森社長が起業した1社目の会社に高校時代の同級生が投資していたという縁がありまして、その関係から、創業して1か月目ぐらいに森社長と知り合いました。私は元々上場会社の社長としてバリューアップの仕事をしていましたので、森社長から経営のアドバイスをして欲しいと言われて、そこからVAZの顧問となりました。私は大手エンターテイメント企業とかメディア企業とのアライアンスや資金調達を主に手伝ってあげていて、その過程でVAZ自体も大きくなって、当時、本当に名だたるYouTuberが所属してくれていました。ちょっと炎上は多かったですが、YouTuberの良いところ・悪いところを含めて、一時期は本当に業界を牽引していた会社かなと思います。

 

孝祐:なるほど。そんなVAZがなぜ再生案件になってしまったのでしょうか?また、小松さんはどのように関わっていたのでしょうか?

 

小松: VAZが企業再生を必要とするようになってしまった理由は2つあります。1つは、YouTuberプロダクションのビジネスモデルが変化のタイミングだったということが挙げられます。それは何かというと、元々YouTuberプロダクションというのは、YouTuberが企画を立案して、自分が出演して、映像制作する。それに対して、クライアント、広告主をつけたりだとか、サポートしたりするのが、YouTuber事務所、プロダクションの仕事だったのです。しかし、YouTuberからすれば、結局、自分が企画して自分が出演して映像制作していることを考えたら、自分たちは日々、大変なYouTube制作をしているのに、事務所のサポートは事務所の報酬の取り分がバランスしていない。つまり事務所にお金が渡り過ぎていると考えるYouTuberが増えて、「(事務所を)独立してもいいのでは?」という人がだいぶ増えたのです。特にコロナ前ぐらいからは、そういった動きがだいぶ活発化していました。YouTuber事務所自体、業界全体が、ちょうど踊り場だったということですね。

 

孝祐:転換期を迎えていたんですね。

 

小松:そうですね。あとは新型コロナウィルス感染症の問題があって、社会全体の経済活動が停滞したタイミングで、先行きが不透明になってしまったということがあります。それでVAZも企業再生が必要な状況になって、私のところに相談に来たという流れですね。

 

孝祐:なるほど。メディアの記事を拝見したのですが、社内は相当混乱している状況だったのでしょうか?

 

小松:そうですね。学生起業家が作った「スタートアップあるある」ではあるのですけれど、創業者がビジネスモデルだとか、先を見る目というところでは非常に素晴らしい才能を発揮していました。VAZの場合は、名だたる投資家・事業会社の皆様のおかげでお金も順調に集まって、YouTuberプロダクションなので、人気のYouTuberも集まってくれて大きくなったのですが、そのYouTuberたちを継続的に支える仕組みだったり、ビジネスとして商売にする仕組みであったりをあまり上手に作れなかったのです。もちろん当時、VAZに所属していたYouTuberもスーパースターばかりで自己主張の強い個性的な方が多かったですし、YouTubeビジネス自体も変化が速く、会社経営の難易度は非常に高かったとも思いますけどね。

 

孝祐:なるほど。事業の立ち上げは上手で、グイグイ引っ張っていくことができる創業者だったけれども、その後が上手くいかなかったわけですね。

 

小松:そうですね。スタートアップの世界では「0→1(ゼロイチ)」とよく言いますけど、「0から1へ」はコンセプトも含めて素晴らしかったのですが、そこから先の「1から10」が上手くいかなかったのがVAZだったというように思っています。

 

 

2.YouTuber事務所というビジネスモデルの再生

 

孝祐: VAZの案件のゴールはどこに設定されていたのですか?

 

小松:今、VAZは上場会社の共同PRの子会社になっていまして、これが元々設定されていたゴールでした。つまりVAZを黒字化して、共同PRの子会社にできるところまで持っていく、というものです。

 

孝祐:最初はかなり赤字だったということですか?

 

小松:そうですね。赤字も赤字で、ビジネスモデル、組織も崩壊していました。先ほど申し上げたとおり、業界全体が転換期でしたので、ビジネスモデルから改めて作り直して再生していきました。具体的に言うと、先ほど説明したYouTuber事務所、プロダクションのビジネスモデル自体が、本来どうあるべきかをもう一回考えたことが再生のポイントですかね。

 

孝祐:そうですよね。自分で企画を作り、自分で出演して、自分で映像制作して、なんなら自分の発信力でお客さんも取れる、というような人たちにとっては「事務所の存在意義とは?」みたいになりますよね。

 

小松:そうですね。ただ、やはりYouTuber、最近で言うとTikTokerとか他のプラットフォームのインフルエンサーもみんなそうだと思うのですが、ちゃんと企画を立て続けて映像制作をし続ける。それはそれでかなり大変です。そのため、制作をちゃんと手伝ってあげる。インフルエンサーとして影響力を保持する、強くする、というサポートをしっかりやらなければいけない。広告も、YouTube制作と営業が切り離されていると伝言ゲームになってしまうので、ちゃんと一気通貫で事業展開することも大事です。変化が早い業界ですので、今はまた事情が変わっているところもあるかもしれませんが、私が社長をやった時は、まだ所属YouTuberの中にも、テレビに出たいとか雑誌に出たいとか、そういった希望を持っている方が沢山いました。ですので、その橋渡しもできるよ、と。YouTuberプロダクションは崩壊する、ビジネスモデルがヘタっていると言われている状況だったのですが、YouTuberたちにちゃんとヒアリングして考えると、YouTuberが手助けを求めていることは沢山あったのです。あとは、それをちゃんとできるだけのケイパビリティの獲得。企業としての行動力だとか、企業としての実行力を獲得しなきゃいけない。コストを切り詰めて黒字にしながら、この実行力を獲得していくというのを約1年かけてやった感じですね。

 

孝祐:なるほど。インフルエンサーがちゃんとインフルエンサーになれるように。それを維持できるように、という感じですね。

 

小松:そうですね。

 

孝祐:コストの切り詰めですが、例えば、どのような削減すべきコストがあったのですか?

 

小松:最初は、そもそも現状把握がちゃんとできていませんでした。「企業再生あるある」なのですが、組織がちゃんとできていないとコスト管理も甘い。組織を作った後に一つずつ丁寧にコスト管理をしました。コスト管理は、VAZのビジネスモデルを考えて、メリハリをつけて行いました。YouTuber事務所というビジネスモデルは、既に活躍しているYouTuberが所属していれば、極論言うと、制作部門を小さくしてしまえば、すぐに黒字にできるのですよ。

 

孝祐:例えば、制作部門の人件費を削る、とかですか?

 

小松:そうです。端的に、著名なYouTuberがいて、その窓口、広告代理店だけやるとなったら、そこは絶対黒字になります。しかし、そこだけやっていても、事務所としては未来がないわけです。会社にプロダクション・制作機能がなく広告代理機能しかなければ、YouTuberたちにとっては、他にも広告代理店はあるわけですから、特定の事務所に所属する意味は乏しくなってしまいますよね。と考えると、目先は制作部門が重い赤字の原因であっても、ぐっと堪えてYouTuberのマネジメント、制作をやらないといけない。YouTuber事務所ですから、YouTuberをプロダクション・制作しないと、事務所の価値がなくなるのです。先ほどケイパビリティと言いましたが、徐々に制作部門の人材の獲得をやって、制作の効率化の仕組みを作って、というところに時間をかけながら経営改革をした感じですね。

 

パーソナリティ 齋藤 実帆(以下「実帆」といいます。):ちなみに、組織ができていなかったと最初はおっしゃっていましたけど、何人ぐらいの社員数だったのですか?役割もバラバラだったのですか?

 

小松:そうですね。経営支援を開始した時の組織図はもう覚えてないのですが、私の時には、大きく言うと4つの組織に再編成しました。具体的には、①クライアントの宣伝部や広告代理店、キャスティング会社などとやりとりをする広告の営業部署、②YouTuberをサポートするマネージャーの部署、③YouTuberの映像制作を行う部署、そして、④管理部門になります。当初はYouTuberプロダクションのマネージャーも、マネージャーという呼称ではありますが、実際には「付き人化」していましたね。テレビ業界のマネージャーは、マネージャーがちゃんとタレントをマネジメントしているわけです。

 

実帆:プロデュース方針を立案して、どの番組に出演させるべきか考える、といったことですね。

 

小松:そうです。マネージャーは担当しているタレントをどうやって売っていくのかを考えなければいけません。テレビのプロデューサーに売り込みをするなど、まさにマネジメントをしているわけです。それこそ、ちゃんとしている芸能プロダクションだと、もちろんキャリアの問題とかで上下関係はあるにしても、役割としては、タレントとマネージャーは対等な関係なわけです。決してマネージャーはタレントの下ではないのです。タレントは実際に演じる、そういったプロフェッショナルであって、マネジメントするのは、それはそれでプロフェッショナルの仕事なのです。それに対して、YouTuberプロダクションはそうなっておらず、YouTuberが自分で企画を作り、出演して、制作までして、と全て自分でやっていました。そのためマネージャーは、YouTuberの身の回りの仕事をちょっと手伝っている、みたいな感じに成り下がっていました。先ほど付き人と言いましたけど、そういうことが多い状態だったのです。その人たちにマネージャーは決して付き人じゃないよ、という話をして、徐々に仕事を覚えていってもらいました。あとは、芸能プロダクション出身の方を中途採用しました。あとは、映像制作も、テレビ業界や映画業界の映像制作のプロフェッショナルを入れて、サポートを充実させた形に切り替えましたね。

 

実帆:ビフォーアフターでYouTuberの配信内容のクオリティが結構変わりそうですね。

 

小松:もちろん、ファンが求めるYouTubeを制作しているので、中身が大きく変わることはありませんでした。あと、同じ映像制作でも、YouTubeの制作とテレビの制作は全く違います。テレビっぽい映像を作っても、YouTubeのアルゴリズムでは再生回数が増えないのです。そのあたりの苦労もあったわけなのですが、VAZの企業再生の難しさは、本当に中長期的に会社を良くするために必要な能力の獲得と、目先のコスト管理が一致しない案件だったということですかね。繰り返しになりますが、目先の利益だけだったら、制作部門の人を減らして、広告代理店だけやったら黒字になります。ただ、それをやっていると、所属のYouTuberが抜けていってしまう可能性が高いわけですよ。そう考えると、制作部門を弱くすることは本当の選択肢ではない。制作部門は短期的にはコスト部門だけど、ここが本源的なYouTuber事務所の価値であり、競争の源泉として育てなければならないのです。制作部門を維持して、中身を良くしながら、全社的なコストコントロールをして企業再生しなければならないという案件でしたね。

 

第6回へ続く)

その他のブログ